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  <title>わ。</title>
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  <description>二次小説</description>
  <lastBuildDate>Mon, 14 May 2012 06:44:27 GMT</lastBuildDate>
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  <copyright>© Ninja Tools Inc.</copyright>
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    <item>
    <title>出会い　３</title>
    <description>
    <![CDATA[　冬獅郎は、高揚を抑えられなかった。<br />
　身の丈にあわせてもった少し小さめの竹刀を持つ手がかすかに震えているのを自覚した。<br />
　それは道場の開始線の向こう側にたつ長身の男も同じだった。<br />
　一度、打ち合って互いの力量を測るように後ろに飛び去る。<br />
　俯いた顔を男が上げるとき、その表情はこれまでの無表情な顔とはうって変わって微笑んでいた。<br />
　冬獅郎もまた同じように笑っているだろう。<br />
　竹刀をきつく握りなおすと、男と冬獅郎は再び竹刀を振りかぶった。<br />
<br />
<br />
<br />
「ああっ海燕ほらっ！　　あの子供が――」<br />
「しっ隊長！　　試合中っすよ！」<br />
　浮竹と海燕が探しに探して「並外れた霊力を持つ子供」を見つけたのは、その日最後の剣術の試合が行われた北修練場だった。白銀に揺れる髪を持つ少年の姿を視界に捉えた瞬間、無邪気にそう声を上げる浮竹に、とっさに海燕がその声を制したのは正解だっただろう。既に学院の講師によって、試合の開始は告げられ件の子供はその中心で、自分よりも頭三つ分ほど背の高い男を相手に竹刀をふるっている。<br />
　それまで彼らの試合の行く末をじっと見ていた新入生達が、浮竹と海燕という珍客に驚き、ざわり、気配を乱して振り返ったようすに、ほら、言わんこっちゃない、と海燕はため息をするが、当の浮竹は何処吹く風だ。<br />
　見てみろ、海燕。あの太刀裁き！と、まるで子供のように興奮している。<br />
<br />
<br />
<br />
「すごいのぅ、右京。こんな試合は兄上達の御前試合以来じゃ」<br />
　試合の行く末を見守っている新入生達の中には、先ほど鬼道の試験で見事な技で色の的を割って見せた少年の姿もあった。その隣には当然のように友人の右京の姿がある。<br />
　素直に試合に感嘆の声をもらす友人の姿に右京はいたずらっぽく笑って告げる。<br />
「お前とどっちが強いと思う、和楽」<br />
　友の名を語っても、右京と和楽は出会って日が浅い。和楽の力量をそれなりに認めてはいるが右京は友人の剣の腕前は知らない。既に、前半の剣術の試験で試合を終わらせている二人は共にブロックごとの優勝を果たしているが<br />
どれも竹刀を持って日が浅い人間ばかりが相手だったため、少し物足りなさを感じたまま試合を終えている。互いの力量を存分にぶつけあえるほどの人間と試合に当たれるのもまた運の問題である。そういう意味では、今試合の中心にいる二人は幸運だ。<br />
　少年――和楽の目は優にこいつらと試合がしたい、と告げていた。<br />
　好奇心の強さは目に余るほどある少年である。先ほどからうずうずと手を動かしていることに、果たして和楽は気づいているのかいないのか。<br />
「鬼道なら誰にも負けんけぇ。剣はどうか」<br />
　どうやら頭の中で勝つための算段を整えているらしい。<br />
　ぶつぶつとつぶやき続ける和楽に右京は笑う。<br />
「俺はこいつらと手合わせなんてごめんだな、楽に勝たせてもらって試験に受かるならそれにこしたことはない」<br />
　全力投球など、疲れるだけだ。<br />
　ようは試験に合格すればいいのである。<br />
　こいつらと同じブロックで戦うことにならなくて良かったと、右京は自分の運にもろ手を挙げて喜んでいる。幸運もひとそれぞれだ。<br />
<br />
<br />
<br />
「見ろ！　小蘭っあの女子（おなご）の強そうな目。そそらぬか？そそるよな。あの目で射抜かれてみたいものだ。そうは思わぬか？」<br />
「幸也&hellip;&hellip;」<br />
　その試合の片隅で、一人まったく試合を無視している人がいることに、果たして気づいている人間はいるだろうか。<br />
　先ほどまでのやる気はどこへやら。<br />
　本人曰く、この学院への入学の目的は「嫁探し」と豪語している幸也は、最後の試合を前に、なぜか当初の目的である嫁探しを思い出したらしい。各道場で試験を終えて、最後の剣術の試合をひと目見ておこうと修練場に集まった女性達を片っ端から見つめている。その姿に、幼馴染の小蘭は、呆れを通り越して頭痛がする眉間を片手で押さえてため息する。<br />
　幸也と小蘭も既に自らの試合を終えていた。<br />
　幸也はFブロックで、小蘭はGブロックで、それぞれ優勝と準優勝を果たしている。<br />
　「空から降ってきた不思議な少年」の試合が見たい、とこの道場に残ったのはほかでもない幸也ではなかったのか。<br />
　奇妙な出会い方をした少年への興味も女性（にょしょう）の前では風に飛ばされる塵に同じである。<br />
　やれやれ、と小蘭が肩を落としたとき、道場の空気が一気に切迫したものに変わった。<br />
<br />
「あ、危ないっシロちゃ――、」<br />
<br />
　咄嗟にそう告げたのは、誰も声であったか。<br />
　鋭い声が響いたと思ったとき、大きく床を踏み抜く音が聞こえた。<br />
　振り返った幸也が見たのは、片膝を床につけて、振りかぶった竹刀を頭上にうけようとしている子供の姿だ。<br />
「――あれは、避けられぬ」<br />
　女ばかりに視線を向けて、試合など見ていなかった素振りをしていた幸也は、冷静に竹刀の軌道を読み取ってそうつぶやいた。<br />
　好みの女の子を捜しているとばかり思われた幸也はなんてことはない、ちゃんと試合の行く末を視界の片隅で追っていたのだ。<br />
　幸也の一言にそれを理解した小蘭は長い付き合いのある友人であるが、なかなか侮れない一面があることを改めてしる。<br />
　今や、道場に集う全ての視線が、片膝をついた少年に集まっていた。<br />
<br />
<br />
　冬獅郎は、汗ばむ手の中で竹刀を握りなおした。<br />
　呼吸は上がっていた。心臓は、早鐘を打っている。<br />
　そのどれもが心地よく、ずっとこれが続けばいいのに、とさえ思っている。<br />
<br />
　わずかばかりに遅れて迎えた剣術の試合は、はじめその手ごたえのなさに落胆せざるおえなかった。<br />
　強い相手と合間見えたい、などと思っていたわけではない。けれど、死神を目指して入学を果たした学院の生徒が、これほど不慣れに竹刀を持つと思っていなかったのも本当だ。<br />
　第一試合で既に落胆し、第二試合で諦めた。<br />
　全力をふるう機会はこの試験では訪れないだろう、そう感じていた試験の最終試合でそれは覆された。<br />
<br />
　男が、目の前にたったとき、冬獅郎はこれは長い試合になる、と直感した。全力をふるえる相手がそこにいる。そう感じたのである。男もまたこれまでの試合に鬱屈を感じていたのか、冬獅郎を見たとき、これでやっと自分の剣がふるえる、とばかりに笑った。<br />
<br />
　勘は外れなかった。<br />
　そればかりか男の力量は、自分が思い描いていたものよりわずかばかり上だった。<br />
　筋肉が心地よい悲鳴を上げる。この高揚感はもうずっと長い間経験していなかったものだ。<br />
（兄上の、）<br />
　試合のさなか、脳裏に過ぎ去った後姿は、もう色あせておぼろげだ。記憶の中のその後姿が対峙している男と重なって消える。<br />
（かつて、兄上と剣を交わしているときもこんな気持ちになった）<br />
<br />
　楽しい。　<br />
　楽しくてしかたがない。<br />
　ずっとこうして剣を交えていたい。<br />
<br />
　不思議と剣と交わしていると、相手も同じ気持ちであると気づく。自分の予想を超えて鋭い一撃が放たれたとき、絶対にかわされないと確信していた竹刀が空を切ったとき、男も冬獅郎もその楽しさに笑わずにはいられない。<br />
　いくつもの攻防の先、このまま長く続くと思われた試合は、しかし予想外のところで転機を迎える。<br />
　夏日といわれた春である。<br />
　汗の滴る床に足をとられて、冬獅郎はバランスを崩した。とっさに片膝をついて体制を整えたとき、聞きなれた声を聞いた気がしたが、男がこの好機を見逃してくれるはずもない。竹刀がせまる。<br />
　少年が負ける、と誰もが思った。<br />
<br />
　その時、<br />
「何っ！」<br />
　まるで霞のごとく冬獅郎の体が掻き消えた。<br />
　男が驚愕に見開いた目の先には、何もない空間を切り裂く竹刀の先端がある。たった今までそこにあったはずの少年の姿が視界の中から消えていた。一呼吸後、背後の気配にはっと息を飲んでも既に遅い。振り返った男のわき腹を冬獅郎の竹刀が打った。<br />
　小気味いい音が場内に響き渡り、誰もがあっけに取られたままでいる中、試合を見守っていた試験官がその右手をたかだかと上げた。<br />
「それまでっ！」<br />
<br />
<br />
「何っ何！？今の！？」<br />
「どうなったの？！」<br />
「どっちが勝った？ぜんぜん見えなかった！」<br />
　場内はもう最後の一撃の話題で沸きあがった。試合を自分の目で見ていたはずなのに、一体何が起こったのかまったく見えなかったのだ。そんな周囲のざわめきをよそに試合を終えた二人はきちんと開始線に戻って礼をとっている。<br />
<br />
<br />
「まさか、今の」<br />
　あっけに取られたのは、新入生達と試合の行く末を見守っていた海燕も同じだ。見るはずのない技を見せられた。そんなことがあっていいのか、とふと、隣をみると浮竹が盛大に笑っている。こんなに声を上げて笑う上司をみるのも久々だ。<br />
「まさかあの子供があの技まで習得してるなんて！　」<br />
　天晴れだ！<br />
　そう続いた声に思わず、<br />
　天晴れじゃねえっ反則だ！<br />
　と、突っ込みをいれようとして、海燕の声は予期せぬ声にさえぎられた。<br />
<br />
<br />
「コラ――――っ！」<br />
<br />
　それは一人の少女の声だった。よく聞けば少年の危機に声を上げた女の声に似ている。道場の扉の前で試合の行く末を見守っていたらしい少女は、わき目もふらずに少年の元に歩み寄るとあっけに取られている周囲をよそに少年のその頭に拳骨をくれていた。<br />
「コラッ！　シロちゃん、その技は試験では使っちゃいけません、って何度も言ったでしょ！　」<br />
「ってぇな！　桃！」<br />
「試験では剣術以外の技は使っちゃだめなのよ！　瞬歩なんて使っちゃだめでしょ！」<br />
「仕方ねぇだろ、体が動いちまったんだから」<br />
「仕方ないじゃなーーーーい！」<br />
　それは紛れもない兄弟げんかであったが、割って入る勇気のあるものはいなかった。それよりもむしろ少女、こと雛森桃の発言に周囲がざわめく。<br />
<br />
　瞬歩。<br />
　それは一呼吸で村三つ分の移動できるといわれている鬼道を使った歩法の一種だ。<br />
　死神の中でも一部の人間だけがそれを習得しているという。<br />
<br />
「ふーむ、なるほど。あの少年、只者ではないと思っていたが、瞬歩まで体得していたか」<br />
　先ほどの少年の一撃には小蘭も目を見張るばかりだ。<br />
　あっけにとられている小蘭をよそに幸也は面白そうに微笑んでいる。だが次の瞬間には難しい顔でなにやら考え込んでいる。<br />
「これが試験でなければよかったんだがな」<br />
「え？」<br />
<br />
　ざわめく場内を制するように、試験管が右手を上げた。<br />
　続いて告げた声に誰もが驚いた。<br />
<br />
「伊東冬獅郎、反則により失格！　よって勝者、草冠草次郎！」<br />
<br />
　わっ、と場内の声が乱れた。冬獅郎はわかりきっていたかのようにやれやれと肩を落としている。その横で雛森が、ほら、失格になっちゃった、と再び制裁を与えている。<br />
　そもそもこの試験は純粋な剣術の技を競う試合である。鬼道、その他道具や技を使った攻撃は禁止している。失格になるのは当然のことだった。事前に試合内容を伝え聞いている冬獅郎本人もそれは承知している。<br />
　ざわつく場内の中一人の男が冬獅郎に歩み寄った。<br />
　雛森の説教を右から左へと流しながら冬獅郎は男の気配に顔を上げた。<br />
<br />
「試験じゃなければ、負けていたのは俺だった。楽しかったよ、冬獅郎。またやろう」<br />
　そう告げたのは試合をした男だ。結果的に勝ち星を取ったが素直に自分が負け、と感じているらしい。笑って手を差し伸べる男の手を冬獅郎もまた笑ってとる。<br />
<br />
「俺も楽しかった。今度はこんな窮屈な道場じゃない場所でお前と戦いたい、草冠」<br />
　それは雛森がかつて流魂街では見たことがない、少年の笑顔だった。<br />
<br />
<br />
　後に終生の友と誓う。<br />
　草冠草次郎との出会いだった。<br />
]]>
    </description>
    <category>莫逆の友（冬獅郎中心　連載中）</category>
    <link>http://waraukadoniha.blog.shinobi.jp/%E8%8E%AB%E9%80%86%E3%81%AE%E5%8F%8B%EF%BC%88%E5%86%AC%E7%8D%85%E9%83%8E%E4%B8%AD%E5%BF%83%E3%80%80%E9%80%A3%E8%BC%89%E4%B8%AD%EF%BC%89/%E5%87%BA%E4%BC%9A%E3%81%84%E3%80%80%EF%BC%93</link>
    <pubDate>Mon, 14 May 2012 06:44:27 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>出会い　２</title>
    <description>
    <![CDATA[<span lang="JA"><font size="2">&nbsp; </font></span>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　西修練場に続く道に、桜が連なる。その道を歩いていくのは、試験を受けている新入生達だ。その新入生達の間に、明らかに、異質を思わせる男の姿が二人、あった。吹きぬける風に煽られ、満開の薄紅の花びらを散らす桜の木のあまりの綺麗さに、ゆっくりと歩をとめ眦を下げ、ほっと息をついた男の一人を振り返り、呼ぶ声が響く。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「浮竹隊長っ！　早く、その子供見つけて隊舎帰りますよ！仕事山積みなんですから」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「待てよ、海燕」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　男二人、桜散る校舎脇を、新入生達の間を掻き分け、足早に過ぎ去って行く。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　死神の代名詞である死覇装をまとったその二人が通り過ぎていったその場所に連なる桜の中でも一際その存在を際立たせる薄紅の桜の大木がある。真央霊術院創設以来、千年。枯れることなく咲き誇るその桜の大木の上、雪の白さを思わせる髪を持つ一人の少年の姿があった。大振りの枝の上、絶妙なバランスで眠りを貪る少年の肩は規則正しく上下している。そよぐ風にさらされ、散る桜のひとひらが少年の頬をかすめた瞬間、少年の閉じていた瞼が、ゆっくりと数度瞬いた。それは、澄んだ玉の色を思わせる蒼。少年の双眸に、深い空の青が映りこんでいた。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　目が覚めてすぐ、飛び込んできた薄紅の桜と、空の蒼に、少年はここは何処だろう、と咄嗟に思考した。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　高く、こんなに遠い、突き抜けるような空を、生まれた国では見た事がない。少年の知る空はもっと深く、押し寄せてくるような群青だった。咲き誇る桜はもっと雪のように、白かった。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">（こんな、青じゃない&hellip;）</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　空は、もっと圧倒的で、一人野に立てば、視界に広がる世界の半分以上を占める青に飲み込まれてしまいそうになる。それが、怖く、けれど、あれほど美しいものは他に知らない。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　記憶の中で蘇る青と重なり合う色鮮やかな空に、少年の意識はゆっくりと形を成していった。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">――いい？シロちゃん、明日は大事な試験だからぜぇったいに遅れちゃ駄目だからね。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　不意に、昨夜、この世界にきてからというものの何かと自分の世話を焼きたがる姉のような存在に、何度も何度も繰り返された言葉が蘇る。その瞬間、少年は、まどろみから一気に意識を浮上させると共に、この場所がどこかを悟り、桜の木の上で跳ね起きた。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「やべっ！　寝過ごした！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　気付いた時には。ゆらり。反動で揺れた枝から少年の体はバランスを崩して、傾いでいく。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「あ、」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　視界に広がる逆さまの世界に、少年は自分が木の上から落ちていることを、知った。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">――</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「僕達の試験は後は西修練場で受ける霊力だけだね」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「よし、早くいって終わらせるぞ、小蘭（しょうらん）。試験が終わったら早速女性（にょしょう）を茶屋に誘わねばならん」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「&hellip;幸也（ゆきや）。君、何しに学院に来たの？」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「嫁を探しに来たに決まっておるだろう。この学院に入学すれば、必ず俺の嫁になりたいと申してくれる優しい女性が降ってくるはずだ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「&hellip;&hellip;降ってはこないと思うよ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　南修練場から、剣術の試験を終え、桜道を歩いてくる二人の青年の姿があった。旧知を思わせる二人は、およそ大半の新入生がある種の覚悟を持って望む試験をそっちのけで（そのほとんどが幸也と呼ばれた青年であったが）、さっき受けた剣術の試験会場にいた、あのおなごは可愛かった、だの、あの娘はなかなかだった、だのと試験会場に集った女性達に意識を奪われていた。半ば、諦めと共に、その声を聞いていた小蘭と呼ばれた青年は不意に、友人の幸也の声が途切れ、立ち止まっていることに気付いて振り返った。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「&hellip;幸也？」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　幸也の視線は、名を呼んだ小蘭ではなく、その上で花びらを散らす桜の方へ向いた。その瞬間、幸也でも、小蘭でもない。まだ子供を思わせる少年の声が二人の頭上から突如割って入った。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「――&hellip;よけろっ！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「えっ？！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　がさりと、頭上の桜が揺れ動いた音を耳で拾った小蘭が、驚きと共にその音がした上へ視線を上げた瞬間。伸ばされた幸也の右手に、体を突き飛ばされて、小蘭は数歩よろめいた。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「わっ！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　見上げた視線の先。ましろの髪を持つ少年が、今まさに小蘭がいた場所に向かって落ちてくる。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「子供？！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　かろうじてその存在を視線の先で認めた小蘭は、続いて友人の幸也がその両手を広げ子供を受け止めようとしている姿を見た。どさり、と激しく何かがぶつかり合う音がして、舞う土煙の中を、尻餅をついた姿で重なり合う少年と、友人の幸也の姿を目の前に見た小蘭は、咄嗟に自分が友人に庇われた事を理解して、青ざめた顔色で友人の元に駆け寄る。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「幸也っ！　大丈夫か？」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　いてて、と、さほど、痛くもなさそうに目の前で呟いた幸也は、心配げに駆け寄ってきた小蘭を見上げ、続いて両手でしっかりと抱きかかえた少年の姿を見下ろして、一呼吸後、驚いたように再び小蘭を見上げて告げた。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「見ろ、小蘭。女ではなかったが、子供が降ってきたぞ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「&hellip;&hellip;幸也、」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　子供が玩具を与えられた時のようにそう瞳を輝かせる友人に、小蘭は傷む頭を抑えその名を呼んだ。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">―――</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　冬獅郎が、木の上から傾いでいく己の体に、それでも焦りを覚えなかったのは、自分が落下していくその場所に、人影が見えるまでの話だった。落ちていく体が、そこに歩いている二人の青年にぶつかるだろう、と予期した瞬間、冬獅郎は二人に向かって叫んだ。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「――よけろっ！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　空中で、二人をかわすのは無理だった。願いのように告げたその声に、二人、それぞれが驚いたように冬獅郎を見上げる。そして、いよいよ接触すると悟ったその刹那、よけるどころか自分を受け止めようとしている青年の姿に、冬獅郎は、何でよけないんだ、と咄嗟に思った。体にくるであろう、と予想した硬い衝撃は、いつまでたってもこなかった。代わりに、人の肌の弾力。その腕にしっかりと支えられた鈍い衝撃。自分の体の下に、下敷きになっている青年の姿に冬獅郎は自分がこの身で受け止められた事を理解した。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「っ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　軽い痛みと共に、跳ね起きるように、青年の上から退こうとした冬獅郎は青年の腕がしっかりと自分の体を支えていることに気付いて、咄嗟にその顔を歪め、焦りと共に、立ち上がった。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「悪いっ、大丈夫か？！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　引き剥がすような激しさで手を振り払うと、一瞬青年が驚いたように自分を見上げる。その姿に冬獅郎は自分の失敗を悟ったが、時はすでに遅かった。冬獅郎の横から友人らしい青年が、「幸也！大丈夫か！」と、二人の元に駆け寄ってくる。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「悪いっ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　冬獅郎は、幸也と呼ばれた青年を見下ろし、もう一度その言葉を告げた。冬獅郎が気遣った青年の安否は決して自分の体を受け止めた衝撃で負った怪我ではなかった。それを知ってから知らずか、幸也が、たった今まで冬獅郎を支えていた自分の両の手の平を、何かを思うようにじっと見下ろす。その姿に、ぎり、と歯を噛み締めた冬獅郎は、続いて告げようとした謝罪を、幸也の表情を見て、飲み込んだ。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「ああ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　呟くと共に、幸也が顔をあげ、何でもないように、笑う。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「心配はいらぬよ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「でも、」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「それより、あの木の枝に引っかかっている懐刀は、おぬしのじゃないのか？」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「え？」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　幸也に指を指されて見上げた桜の木の上。小さな小枝に下げ紐を引っかからせて宙吊りとなった懐刀があった。その姿に、あっ、と声を上げた冬獅郎の横で、幸也の友人であった小蘭がゆっくりと告げる。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「あれは、もう一度木に登らないと取れそうにないね、僕が取ってきてあげるよ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　そう名乗り出た小蘭に、冬獅郎は首を横に振った。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「いい、大丈夫だ。ここからでも、取れる」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「え、でも、」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　そう続けた小蘭と、幸也の前で、振り上げるような動作一つで、冬獅郎が手を上げる。その瞬間、はらり、と懐刀の周囲の桜が散り、枝にひっかかっていた懐刀が、すっ、と音もなくおちてきた。それを片手で受け止めた冬獅郎は、驚く小蘭をよそに、先ほど自分を受け止め倒れた幸也を振り返り、告げた。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「&hellip;&hellip;本当に、大丈夫なんだな？」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　ついさっきまで懐刀が引っかかっていた木の枝を見上げていた幸也は冬獅郎の声に、その視線を目の前の少年に向けた。真摯に問われた声に、幸也は頷く。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「ああ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「&hellip;&hellip;」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　気遣うというよりも。己の言葉を疑うような冬獅郎の眼差しに幸也は笑う。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「本当だ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　その声に、今度こそ冬獅郎は頷くと、じゃあ俺は行く、と少しの逡巡を見せながらもその場から去った。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　走り去っていく冬獅郎の後姿に小蘭が、小さく呟いた。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「なんていうか、変わった子だったね、&hellip;&hellip;幸也？どうかしたのか？」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　振り返った友人が一心に桜の木を見上げている姿を見て、小蘭はいぶかしむようにその名を呼んだ。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「小蘭、さっきの見たか？」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「え？」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「あの子供が手を上げた時、」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「ああ、運がよかったね。風に揺れて懐刀が落ちてくるなんて、」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「&hellip;風ではない」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　ぽそり、と呟いた幸也の声は小蘭には届かなかった。まるで先ほどの冬獅郎と、同じような動作で幸也が右手を上げる。その指先に霊力が込められているのに気付いて小蘭は咎めるように幸也の名を呼んだ。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「幸也っ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　指先にこめられた霊力が放たれる。その瞬間、衝撃を受けた桜の木の枝が、パァンと弾け飛ぶように粉砕する。ぱらぱらと木の枝が頭上に降りかかり咄嗟に小蘭はそれを右手で払った。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「何やってるんだよ？！　幸也っ！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　驚く小蘭をよそに、幸也はいたって平静なまま、考え事をする素振りで、ふむ、と呟いた。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「&hellip;俺にはできんな」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「はあっ？　一体何が？！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　ついさっき、目の前で少年がたった一振り腕を振り上げるような動作一つで、懐刀の下げ紐が引っかかった細い枝を一本、霊力で切ったのを確かに幸也は自分の目で見た。少年が放ったその霊力は、きらりと、陽光と弾いて枝を切った瞬間に霧散した。鋭利な。凍てつく氷の鋭さを思わせるような霊力だった。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　あれほど鋭く細く硬い霊力。しかも、たった一本の小枝だけを切り落とすその技巧。小蘭の目には映らなかったらしい、その所業に幸也は感嘆と共に、あの少年を抱きとめた両の手を見下ろして笑った。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　少年が気遣ったあの言葉。決して体を抱きとめた時の衝撃に倒れた体にではない。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">（肌に触れるだけで、霊力で人を傷つけるか&hellip;。大きく、それでいて厄介な霊力だな）</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　幸也の手の平。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　きらりと光を散らす氷の残滓がさらり、と流れる。その冷たく氷のような霊力に、ぴりりと肌を焼かれる痛みを感じながらも、幸也はもう一度笑うと、突然のわけの分らぬ行動をする幸也にいまだ文句を言い続けている小蘭の頬に、その右手をぺたりと貼り付けた。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「冷たっ&hellip;！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「小蘭、俺達も西修練場に急ぐぞ」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「えっ、」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　さっきまで女性を茶屋に誘う話ししかしていなかった幸也が、突然やる気を見せた姿に驚くと共に、凍傷を負ったような冷たさの幸也の右手に小蘭は、息を飲んだ。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「あれだけの力の持ち主がいるとは&hellip;。俺も、負けてはおれん」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「幸也っそれより君、その手&hellip;」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　小蘭の問いをよそに、楽しげに駆けていく幸也の背を、追いすがるように小蘭は走った。</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">「あ、待てよ。&hellip;幸也！」</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	<span lang="JA"><font size="2">　二人。西修練場に向かって走り去っていくその背に重なるようにひらり、と薄紅桜が散った。</font></span></p>
<p>
	<span lang="JA"><font size="2">　</font></span></p>
]]>
    </description>
    <category>莫逆の友（冬獅郎中心　連載中）</category>
    <link>http://waraukadoniha.blog.shinobi.jp/%E8%8E%AB%E9%80%86%E3%81%AE%E5%8F%8B%EF%BC%88%E5%86%AC%E7%8D%85%E9%83%8E%E4%B8%AD%E5%BF%83%E3%80%80%E9%80%A3%E8%BC%89%E4%B8%AD%EF%BC%89/%E5%87%BA%E4%BC%9A%E3%81%84%E3%80%80%EF%BC%92</link>
    <pubDate>Mon, 14 May 2012 06:28:28 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">waraukadoniha.blog.shinobi.jp://entry/137</guid>
  </item>
    <item>
    <title>出会い　１</title>
    <description>
    <![CDATA[<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　先年、例を見ないほどに百花繚乱を誇った年の春。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　伊藤冬獅郎、真央霊術院入学。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　その日。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　真央霊術院東西南北の修練場にて、組み分け編成の為の実力試験が行われた。筆記、鬼道、霊力、剣術。現在の新入生のそれぞれの素養を知るために行われたその試験は各修練場に分かれて行われ、この日の試験の結果によって、後の組み分けが決まる事実に、新入生はある種の緊張感と気迫でもって試験に臨んだ。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「やあ、今年の新入生は元気がいいなあ。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「なんか、生意気そうなやつばっかりじゃないすか。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　真央霊術院北修練場。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　鬼道の試験が行われたその場所で、明らかに教師とも新入生とも違う男が二人、入り口の近くに立っていた。共に長身の男二人は、一人が黒髪のザンギリ頭、もう一人は珍しい白銀の長髪をゆるりと背中に流していた。真っ黒な袴を着、白銀の髪の男はさらにその上にましろの羽織をはおっている。羽織の背に描かれている、十三が、風に流れる白銀の髪の間からさらりと見えた。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「それで、浮竹隊長が言ってた物凄い霊力を持ってる&rdquo;天才児&rdquo;とやらは何処ですかね？」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　入り口に立っている二人の男の存在に気付いた新入生の一部がぎょっと顔を強張らせて彼らを振り返ったが、そんな事には目も止まらない様子で黒髪のザンギリ頭の男が視線をさまよわせながら、告げた。鬼道の試験が行われたここ北修練場の道場の中には、三つの丸い的があり右から霞・星・色、と大きさの違う的にそれぞれに列を作っている新入生達がいる。試験内容は射位から二十八メートル離れたそれぞれの的に練り上げた鬼道をぶつけるといった至極単純なものだった。しかし、まだ鬼道の訓練を受けていない新入生達の多くは鬼道そのものを作り出すことも困難な様子で、たとえ上手い具合に力を作れても、それを的にぶつける事のできる人はごく少数だった。先ほどから新入生の飛ばす鬼道は的を大きく外れ、あちらこちらで霧散している。一番大きな的である霞ですら、それに掠る人は少ないようだった。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「あいつは目立つからなあ、」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　浮竹隊長、と呼ばれた白銀の髪の男は、数年前流魂街で見た記憶の中にある幼い一人の少年の姿を、的に鬼道をぶつけようと奮闘する新入生達の間に探した。同じ白銀の髪を持っていた少年は、かつての自分がそうだったように人ごみの中にいても、その存在を際立たせることだろう。視線をめぐらし、まだ幼くそれでいて強い力を秘めた少年の姿をそこに探したが、浮竹の目にその人物がとまることはなかった。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「どうやら、ここにはいないようだな。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「じゃ、次行きましょう。次。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「まあ、そんなに急ぐこともないだろう、海燕。少しここで試験を見ていってもいいじゃないか。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「浮竹隊長。さっきもそう言って東修練場で一刻も費やしたの覚えてますか。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「え？そんなにいたか？」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「こんなんじゃ、その&rdquo;天才児&rdquo;見つける前に日が暮れますって。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　流魂街で会った事があるという、子供の試験の様子をみたいと告げた浮竹に付き合って海燕と呼ばれた男は忙しい仕事の合間を縫って上司である浮竹と共にここ真央霊術院に訪れた。海燕は、何処かおっとりとして、慌てる様子のない性質の浮竹を少しの呆れと共に急かす。先ほどから浮竹はことあるごとにあの子は凄いなあ、だの、お、あの子の霊力はなかなかだぞ、と新入生達を見てまわり、あげく人の良さから試験が上手くいかない様子の新入生にはアドバイスまでし、そのつど試験管から浮竹隊長！試験ですから助言しないであげてください！などと叱られつつ、各修練場を回って流魂街であったという子供を捜してまわっている。これでは目的の&rdquo;強い霊力を秘めた子供&rdquo;に辿り着く前に試験そのものが終わってしまいそうだ。海燕が渋る浮竹を宥め、出口に押しやろうとしていたとき、不意に道場の中で試験を受けている新入生の間から、わあっ、と歓声がわいた。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「右京ーっ！」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「うわっ、ちょ、お前飛びつくな！」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「どうじゃ！今の見たか！的に直撃じゃ！」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「あー、見た見た。凄い、凄い。ちゃんと見たから早く降りろ。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「なんじゃ、もっと褒めてくれてもええのに、冷たいやつじゃのう。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　一番左の的に列を作っていた新入生達がざわざわとざわめいた。彼らの間で一人の華奢な、くせのある明るい髪を持った見目１６歳くらいの男が、右京と名を呼んだ友らしい男に、飛び掛るように抱きついているのが見える。新入生達は右京に飛びついている男を驚きと尊敬と少しの焦燥と悋気で見上げていた。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「ほう、」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	&rdquo;色&rdquo;</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	一番小さく、これまで誰も当てることのできなかったその的の中心に、鬼道をぶつけ、そしてあろうことか霊力に強い素材で作られたその的を真っ二つに割った新入生がいた。試験管が割れた的を拾い上げ、目を見開いた。近年、色を割った者はいないどころか、それに鬼道を当てたものさえ少ない。試験管の記憶の中で組み分け編成の為の試験で、色に鬼道をぶつけたのは去年卒業した檜佐木修兵が最後である。それも、かろうじて的の外枠にぶつかった程度だった。手の中にある割れた的を見下ろし試験管は驚きのあまり絶句する。その試験管の横で、割った本人は鬼道を的に当てた喜びいっぱいな様子で無邪気に友人にもっと褒めろ褒めろと騒いでいた。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「――やるなあ、」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　浮竹は、その明るいくせ毛の少年を見ながら笑顔で呟いた。素直に喜ぶ少年の姿を嬉しそうに見ている浮竹のその横で、海燕が溜息をこぼす。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「褒めるほどじゃないっすよ。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「なんだ、海燕は随分と手厳しいな。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「あれぐらいできて当然です。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　今度こそ、浮竹を急かして道場から歩き出す海燕に、浮竹はくすりと部下である海燕を見上げて笑った。その様子が気に止まったのだろう。海燕が訝しむように浮竹を見る。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「何、笑ってんすか、隊長。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「そうだったな。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「？」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　少し、不機嫌な様子で浮竹を振り返った海燕に、何かを思い出したのだろう。浮竹は笑いが止まらない様子でく、く、と肩を震わせている。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「お前が、試験を受けた時は、真っ二つどころじゃなかった。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「&hellip;&hellip;。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　それはどれぐらい前のことだったか。かつて、真央霊術院の組み分け試験を浮竹が覗きにきたとき、こんな風に鬼道の試験会場を騒がせた子供がいた。彼は、当てるのさえ難しいといわれた&rdquo;色&rdquo;を粉砕して見せ、その場にいた全員を騒然とさせた。浮竹が色を粉砕した新入生を見たのは後にも先のも彼一人だけである。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「でも、海燕。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　かつて子供だった彼はこうして、自分を支える右腕となってここにいる。縁とは不思議なものだ。浮竹は今では背を追い越され、立派な青年の相貌となったかつての子供をその名を呼ぶと共に見上げた。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「お前は今や護廷十三隊十三番隊の副隊長だぞ？あの子と張り合わなくてもいいだろう？」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「！」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　本当にお前は負けず嫌いだなあ、と浮竹は笑みを浮かべ海燕の肩をぽんと叩くとそのまま歩き出した。とっさに絶句した海燕は言われた意味に気付くとこんな時ばかりは足の速い上司を舌打ちと共に追った。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「勘違いしないでください！別に張り合ってなんかいないっすよ！」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「わかった。わかった。そうしといてやる。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「ちょ、もうほんと、違いますって！」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　浮竹の笑い声と共に北修練場から去っていく二人と入れ違いで修練場に足を踏み入れた少女がいた。黒髪を二つにしばった小柄な少女は修練場の入り口から中を覗き込むときょろきょろと見回す。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	「おかっしいなあ、シロちゃん。何処にいるんだろう。」</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　歓声で騒がしい道場を不思議に思いつつ探し人がそこにいないことを知ると少女は踵を返した。少女が踵を返した修練場の中では色に鬼道をぶつけた少年がきゃっきゃと騒ぎ、今だ抱きつかれたままの友人が困り果てた様子で溜息をついていた。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	　</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	昼下がり。</p>
<p style="line-height: 150%; margin-top: 0px; margin-bottom: 0px">
	試験は始まったばかりである。</p>
]]>
    </description>
    <category>莫逆の友（冬獅郎中心　連載中）</category>
    <link>http://waraukadoniha.blog.shinobi.jp/%E8%8E%AB%E9%80%86%E3%81%AE%E5%8F%8B%EF%BC%88%E5%86%AC%E7%8D%85%E9%83%8E%E4%B8%AD%E5%BF%83%E3%80%80%E9%80%A3%E8%BC%89%E4%B8%AD%EF%BC%89/%E5%87%BA%E4%BC%9A%E3%81%84%E3%80%80%EF%BC%91</link>
    <pubDate>Mon, 14 May 2012 06:27:11 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">waraukadoniha.blog.shinobi.jp://entry/136</guid>
  </item>
    <item>
    <title>芍薬と燕</title>
    <description>
    <![CDATA[　　<br />
　静けさがあった。その真中に、闇よりも深い黒い夜が落ちていた。それは諦観か、慟哭か図ることはできない静けさだった。霊圧すら凪いでいる。一番隊舎に、12人の隊長各がそろっていた。<br />
　日番谷はそっと瞼を閉じて、上座に座る総隊長の言葉を耳だけで待った。不思議と心は落ち着いていた。数秒か、それとも数分か分からない沈黙の後、総隊長の擦れた声が、やけにゆっくりと訃報を告げた。<br />
<br />
「海燕が、死んだ」<br />
<br />
　黒い黒い燕。雨に濡れて息絶えた。<br />
　番いの姿を求めて、燕は地上を旅立った。<br />
<br />
　諦めに似た吐息がどこからか、聞こえた。きっと十二番隊長あたりだろう。卯ノ花はそっと瞼を伏せ、剣八はあからさまに舌を打つ。京楽は瞬くことなく総隊長を見据え、朽木は沈黙を守った。震えた空気の中、一言。<br />
<br />
　かわいそうに。<br />
<br />
　愛染がつぶやいた。<br />
　総隊長が、何の感情もこもらない声で、同胞の死の真相と、逃した対象の追跡に割り当てる隊を編成する話を事務的に話し始めた。<br />
　日番谷はそっと目を開け、話には興味がないように、ただ、一人分だけ欠けた13番目の空白を見続けていた。<br />
<br />
（あの男は、）<br />
<br />
　想像した。<br />
<br />
（どんな顔で、片割れを殺したのだろう）<br />
　<br />
　と。<br />
<br />
<br />
<br />
+<br />
<br />
<br />
　日番谷が十番隊舎に戻ると、夜も更けているというのに、隊舎にはいつまでも煌々とした明りが灯されていた。退社を促した席官たちのだれ一人として、欠けてはいなかった。執務室の中で、隊首日番谷を待ち、不安で入り乱れた視線をよこした。<br />
　隊員達は気づいていた。戻ってきた日番谷の表情から。何も語らないその沈黙から。<br />
　一人の副隊長の死の噂が真実であるということを。<br />
「隊長&hellip;」<br />
「泣いている暇はない」<br />
　今にも途切れてしまいそうな呼び声をさえぎる。ぐ、と息が詰まる音が聞こえた。日番谷は振り返り、彼方に見える１３番隊舎を示した。<br />
　「じきに旗が上る」<br />
　それは闇よりも深い黒をあの空に落とすだろう。<br />
　もう何本も、その黒い旗が、十三番隊の隊舎の屋根の上で、風にはためくのを見た。<br />
　一つ目は燕の番い。その仲間たち。<br />
　そして今夜、燕の旗があの空ではためく。その死を知らせるために。<br />
　隊員たちは促されるように空を見上げ、熱を持つ目をぐ、と開いた。油断すれば、こぼれていく何かを必死でとどめた。<br />
　小さな小さな擦れた声が、今度は労わるようにもう一度同じ言葉を告げる。<br />
<br />
「泣くな。死を悲しいと思うなら、今はただ、冥福を祈れ」<br />
<br />
<br />
+<br />
<br />
「もし、十番隊で私の旗が上るなら色は黒じゃなくて赤がいいわ」<br />
　足をとどめようとする隊員たちを無理やり帰路につかせて、自らの隊首室に足を踏み入れると、待ちかねたように副官の松本が、ソファを陣取っていた。<br />
「それで、でっかい芍薬の花をそこに描いてもらうの」<br />
　振り返らずに告げる。その視線は、十三番隊舎の屋根の上にとどまっている。<br />
「黒より、よっぽどいいと思いません？ねぇ、隊長」<br />
　振り返った松本は、笑みを浮かべてそう告げた。声も笑顔もいつもと変わらないおどけた姿の副官を見て、日番谷は言葉には答えないまま、手に持っていた依頼書をばさりと机に放った。<br />
「任務だ」<br />
　目の前に投げ出された紙きれの一枚を手に取り、それを読み進めながら、あら、まぁ、と感情のこもらない声で松本が告げた。<br />
「引き受けちゃったんですか、この任務」<br />
「引き受けたんじゃない。他所の隊が却下されただけだ」<br />
「それでも、断ろうと思えば断れたんじゃないですか」<br />
　日番谷はそれには答えず数日後に編成される隊の人員についてこと細かく副官に指示をした。一通り仕事の話が終わった後、もう一度、任務の詳細が書かれた紙に目を通し松本は、誰に告げることもない声をはく。<br />
「どんな思いでしょうね」<br />
「・・・何が、」<br />
「虚に体を乗っ取られ、部下を刺殺して、それでもなおその虚を捕まえられなかった人の気持ちというのは、」<br />
　それは訃報を知った人のどんな涙や言葉よりも、絶望を孕んでいた。<br />
　<br />
　隊の隊首室は寝室が隣接している。自宅へ帰るよりも執務室で仮眠をとり、仕事を続けることの多い日番谷に、松本はいつものように明日の仕事の引き継ぎと今日も執務室に泊っていくかを問うた。いつもと同じであれば朝一番に押印が必要な書類は執務室に届け、自宅に帰るのであれば、内勤の隊員に朝自宅に届けさせるよう手配する、と告げた。日番谷いつものように執務室で寝て行く、と告げようとして思いとどまった。しばらく何かを考え、任務までは自宅に戻ると告げた。この仕事漬けの隊首が、執務室を離れること自体マレだ。それでも、松本はそれが何故かとは聞かなかった。<br />
「家には内勤の隊員以外近づけないようにしておいてくれ」<br />
「わかりました」<br />
　そのまま隊舎を後にしようとする日番谷の背を松本もゆっくりと辿りながら、ありえない、もしも考えた。<br />
　海燕の死の衝撃はあった。<br />
　けれどそれが仰いだ隊首によって果たされたのだと知った時、海燕の死は松本の中で形を変えた。<br />
　だから、考えた。もし、同じ戦場に、この隊首が立ったならどうするだろう。<br />
「海燕、あんた幸せ者ねぇ」<br />
　十に染められた羽織を見つめ、松本はつぶやいた。ゆっくりと閉じた瞼の裏に、色鮮やかにはためく芍薬の旗を松本は確かに、見た。<br />
<br />
　<br />
　来訪者は３日後の深夜、音もなく日番谷の自宅を訪れた。日番谷は、認めていた手紙の文字を書ききって、一向に開く気配のない襖の奥を見る。訃報から３日。早いとも、遅いとも言える。隊の隊員には任務の守秘義務があった。十番隊の隊員が口を割ることはない。情報源はどうせ八番隊の隊首あたりだろう、それともいまだに内奥のよく分からない市丸あたりか。そう目星をつけて、日番谷は蝋燭の炎で揺らめく影を振り返った。炎の揺らめきのせいか、それは危うげな今にも消え入りそうな気配を持っていた。<br />
「入らないのか」<br />
　隊首にしてはめずらしく自宅に女中や側仕えを置かない日番谷の自宅は、家主がいなければ無人となる。普段ならば鍵のかけられた扉は、まるで来訪者を待ちわびていた、とでもいうように開け放たれていた。<br />
　声に、少しだけ反応した襖の向こうの影に日番谷は溜息をついた。<br />
「来る頃だと思っていた。お前にしては行動が遅いと感じていたくらいだ」<br />
　そして、そっと襖の向こうにいるであろう人に呼び掛けた。<br />
「浮竹」<br />
　海燕の死から３日。１３番隊隊長の姿がそこにあった。<br />
<br />
　病魔に冒された体で、戦場にたった浮竹は、自宅で療養していたはずだ。海燕の死の直前、その体から逃げ出した虚の討伐が片をつくまで、それは続く。一歩も外に出ることはかなわず、外出は同格の隊員の付き添いが必須。療養と称した謹慎。四番隊の厳しい監視下に置かれていたはずの浮竹は、けれど、誰も付き添いを連れず、たった一人で、日番谷のもとに訪れた。<br />
　四番隊の監視の目を抜けて、屋敷を出たのだろう。幾人かの隊員は言いくるめてきたのかもしれない。<br />
　青白い顔の同僚は、日番谷の顔を見ると、目だけをギラつかせて一つ、息を吐いた。子供をあやすように懐から菓子を取り出すいつもの姿はどこにもなかった。座るよう促した席には目もくれず、追い詰められた顔のまま、脅迫するように、乞うように、祈るように、強く名を呼んだ。<br />
「冬獅郎・・・」<br />
　<br />
　その時、気づいた。<br />
　きっとこんな顔をしていたに違いない。<br />
<br />
「出撃の日取りを教えてくれ」<br />
<br />
　海燕の前にたった浮竹は<br />
　今と同じ顔をしていたに違いない。<br />
<br />
<br />
「聞いてどうする」<br />
　子供じみたやり取りだ、と自嘲した。答えを知りながら、それに答えられないことを知りながら、それでも問わずにはいられない。今の今まで書き付けていた手紙の文字に目を落とし、そっと息を吐くように告げる。<br />
「それを俺がお前に教えるとでも？」<br />
　六番隊が動いている。冷静沈着な朽木にしては珍しいことだ。気付いた時には斥候が出ていた。随分と早い行動だ。隊首会が開かれるよりも先に朽木は動いていたのだろう。正式に隊を動かす許可は与えられてはいないのだから、それは既に斥候ですらない。斥候は一番隊から出ている。情報を知るための、ただそれだけのための符丁にすぎない。方々に手紙を書きつけ、それを阻止する。流魂街に潜伏している隊員を徹底的に調べ上げその行動を逐一報告させる。<br />
　任務には五番隊と六番隊と八番隊と十三番隊は初めから外されていた。朽木はそれを予想していたのだろう。総隊長は真意を語らなかった。私恨が強い隊には回さなかった、という意見もあったが日番谷はそうは思わない。失ったときの損失を冷静に推し量ったのだろう。外されたのはどこも、上流貴族を頂点にもつ隊ばかりだ。軍事機構と貴族との均衡を推し量った安全策をとったに過ぎない。<br />
　面倒なことだ。任務が下されたとき、日番谷はそう思った。十番隊は既に六番隊と十三番隊を牽制している。それでも。水面下では、血眼になって日番谷から情報を得ようとするものが現れるだろう。理由は簡単。喪失からくる憎しみ。仇討ちだ。十番隊は独断で強行に走る隊員を処罰し、なだめるところから始めねばならなかった。<br />
<br />
「俺がお前達の仇討ちに手を貸すとでも？」<br />
<br />
　怒りのような憂いのようなその声に、怯んだのは浮竹のほうだ。一切の紛いや手加減が許されないと感じた。生半可な覚悟で剣を取らせてくれと乞うのはこの子供を侮った下賎な行為だと思い知らされた。そんなつもりはなかったが、私恨で戦わせてくれと願う事すらこの子供を侮った行為なのだと思わされた。<br />
「冬獅郎」<br />
　日番谷は理解している。理解して、それでいて、彼らに手を貸すことはないと硬く決意しながら、今日ここに浮竹が来ることを知っていた、という。それはどういう意味か。<br />
<br />
「俺を、待って、いたのか」<br />
<br />
<br />
　馬鹿な男だ。ねじ伏せて行けばいいものを。<br />
　馬鹿な男だ。筋を通すことしか知らない。<br />
　馬鹿な男だ。この男は、こんなにも―――<br />
<br />
<br />
<br />
「明日だ。１７８６６地点まで追跡し西流街７８番地区「草壁」に潜伏しているのを突き止めた。一番隊と十番隊の席官に監視をさせている。任務には鬼道に長けた席官を連れていく。禁域を作り出すためだ。現場の指揮には松本を当てる」<br />
　一切の躊躇もなく告げた。喉から手がでるほど欲した情報を、日番谷はさらり、と口にした。番いのために剣をとった海燕と、海燕の誇りのために剣を取った一人の隊士と、友の悲願の為に剣をとった朽木と、そして全ての終息をつけようと覚悟しそれでも、日番谷に会わずにはいられなかった浮竹への、日番谷ができる唯一の誠意なのかもしれなかった。<br />
<br />
「討伐には俺が出る」<br />
<br />
　浮竹は泣いた。<br />
　海燕を失って初めて声をあげて泣いた。<br />
<br />
「だから、浮竹」<br />
　瞼の裏に、十三番隊の屋根の上で死の旗が翻っている。それは今燕を知る全ての隊士の胸の奥で掲げられているだろう。<br />
<br />
<br />
「虚に乗っ取られたお前の体を切らせるような、そんなまねをお前は俺にしないでくれ」<br />
　<br />
<br />
+<br />
<br />
<br />
　討伐は、長雨にぬれる日だった。全ての住民の避難と結界の準備が整ったことを松本は日番谷に告げた。日番谷は一つ、うなづいて件の虚の気配が色濃い、ぬれそぼる樹海を見た。<br />
　解放は、突然だ。<br />
　何の前触れもなく、日番谷は霊圧を解き放った。<br />
　地響きが起こり、虚の逃走を阻止するためだけに張られた結界が軋むように音を立てた。あまりの圧力に松本は膝が震えるのをとめられず、むき出しの土に片手をついた。<br />
　それには目もくれず、鈴の音のなる柄を握り、日番谷が一言。<br />
「いいか、松本。覚えておけ」<br />
　怒りを含んだ声。それを聞いて、松本は、気付いた。<br />
　ああ、きっと随分と前からこの子供は怒っていたのだろう。無謀に走った海燕に。それに続こうとする朽木と浮竹に。そして、それは一つの幸福の形なのだと錯覚を抱く自分に。<br />
<br />
<br />
「俺は、赤い芍薬の旗なんて掲げるつもりはねぇぞ」<br />
<br />
<br />
　抜刀一閃。<br />
　その日、虚空に煌く竜は、灰色の雲をなぎ払った。黒と赤を引き裂くような、全ての憂い消失させるそんな剣だった。雨は切り裂かれ、後には雲ひとつない空が、何処までも広がっている。<br />
<br />
　胸の中に黒い旗を掲げた隊士達は、遠く、切り裂かれていく雨雲から、広がっていく青を、いつまでも見ていた。<br />
<br />
　]]>
    </description>
    <category>短編</category>
    <link>http://waraukadoniha.blog.shinobi.jp/%E7%9F%AD%E7%B7%A8/%E8%8A%8D%E8%96%AC%E3%81%A8%E7%87%95</link>
    <pubDate>Fri, 23 Dec 2011 03:05:44 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">waraukadoniha.blog.shinobi.jp://entry/134</guid>
  </item>
    <item>
    <title>王の帰還　１１　―朝日―</title>
    <description>
    <![CDATA[<!--shinobi1--><script type="text/javascript" src="http://x5.genin.jp/ufo/08384300f"></script><noscript><a href="http://x5.genin.jp/bin/gg?08384300f" target="_blank">
<img src="http://x5.genin.jp/bin/ll?08384300f" border="0"></a><br>
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<p><br />
　ほの暗い道の向こう、燈るともし火がゆらり、と揺れて、日番谷は、走る足を緩めた。<br />
「日番谷様ですね？事情は既に知っております、私達は貴方の味方です。こちらへ、急いでっ」<br />
　日番谷達は今、瀞霊廷の中でも正一位にすら劣らない貴族の屋敷の裏口の前にいた。そこに立っていた使用人らしき男は、羽織姿の日番谷を見るなり、まるでその姿を闇から覆い隠さんばかりに、戸の影へと導いた。次々と裏門を潜る死神達を背にして、最後の一人がそこを潜りぬけると使用人は身を潜めるよう提灯の小さな火を吹き消して、重厚な戸を閉め、鍵をかける。錠前の重い金属が空気に響いてようやくそこにいた一人の死神を振り返った。<br />
「坊ちゃん、」<br />
　日番谷の一歩進み出た死神は、顔を覆っていた覆面を外してその素顔を晒した。さらり、と青年の肩で黒髪が揺れた。まるで懐かしいものを見るように使用人が涙に濡れたような目でその青年を見上げる。<br />
　護廷十三隊五席九条四季。此処は、今この場に立つ青年の生家だった。<br />
　邂逅は四季の吐息を吐くような微笑で終わった。懐かしい呼び名で呼ばれた四季は、けれど次の瞬間には死神としての顔でそこに立つ日番谷を振り返る。<br />
「流魂街まで続く地下通路までは私が案内します」<br />
　日番谷の、逃走経路確保する、と聞いた時。四季は迷わずに自らの家の地下通路を提供した。いくつかの脱出路は確保していると言っていたから、安全策になればいい、と思っての事だった。結果。用意されていた退路は全て断たれ、残すはこの道以外に他はない。<br />
「坊ちゃん。既に護廷十三隊の死神が屋敷に来てます。今は正門で、当主が時間稼ぎをして下さってますが、それもいつまで、持つかわかりやせん。とにかく、急いで」<br />
　使用人の焦りが入り混じった声に頷きながら四季は日番谷を先導して駆けた。やがて見えてきたのは、九条の屋敷の中でもっとも聖域と言われた神器が祭られた社。そこで、日番谷たち十番隊を出迎えたのは、宮司を務める四季の叔父、白鴎だった。<br />
「話は既に聞いておる。急いで道を潜れ。この道を真っ直ぐ。流魂街の森に抜ける。おぬしらが入ったら、すぐに道を塞ぐ」<br />
　その道は、神器が祭られた社の真下に存在した。黴くい空気が流れるその暗い道を見据え、日番谷はそこへ導く白鴎の姿に頷く。その時、社の門を守る門番から悲鳴が上がった。<br />
「白鴎様っあいつら、屋敷に押し入ってきたようです！まっすぐこっちに向かってるって！！」<br />
　その声に、四季は幼い隊首のその背を押した。<br />
「隊長っ急いで」<br />
　四季に背を押され、日番谷は否応にも道に足を踏み入れながら、それでも振り返った。社のずっと向こうでは乱闘のような声が聞こえていた。これまでずっと共にかけてきた十番隊隊士達が追手の存在に急くように日番谷の名を呼ぶ。<br />
「隊長っ早く！」<br />
「四季、」<br />
「隊長&hellip;！」<br />
「あいつらが踏み込んでくる前に、」<br />
「急いでっ」</p>
<p><br />
「お前達は此処で戻れ」</p>
<p><br />
　息を飲むような沈黙は一瞬。四季は日番谷の思いを察して寂しげに笑った。<br />
　肯定の意だった。</p>
<p><br />
「&hellip;はい」<br />
「九条さん？！」</p>
<p><br />
「護廷に戻ったら」<br />
「隊長、」<br />
「浮竹を頼れ。軍事法廷に立たされたら俺に脅されていた、と言え」<br />
「&hellip;隊長、」<br />
「いいか。お前らは誰よりも先に、自分を守れ。不利だと感じたら、黙秘を通せ。それから、」<br />
　日番谷の脱出経路はいずれ暴かれる。その痕跡を辿って護廷の人間は九条家の屋敷をいずれ探り当てるだろう。この抜け道を使った時から、九条四季が、日番谷の脱獄に手を貸したという罪は既に逃れられないのだ。他のどの隊士が言い逃れようと、四季だけは免れない。その罪はきっと四季本人だけではなく、この屋敷の人間にまで及ぶだろう。身内がここ瀞霊廷にいる以上、四季は此処を離れることはできない。更なる咎が家族に及ぶと知っているからだ。それを知っていて、それでも四季は手を貸した。九条家の人間は日番谷に手を貸した。日番谷はそれを理解していた。それは、彼らの意思。<br />
<br />
<br />
「日番谷隊長」<br />
<br />
<br />
　声を遮るように、四季は告げた。柔らかく気配を和らげた四季がいつものように、笑った。<br />
「大丈夫です」<br />
「&hellip;&hellip;四季、」<br />
「貴方が作ってくれた居場所です」<br />
　此処。<br />
　護廷十三隊十番隊という居場所。<br />
（知っている）<br />
<br />
「失えません」<br />
<br />
　隊首がそれを願っている事。<br />
　知っている。<br />
&nbsp;</p>
<p>「絶対に、失いません」</p>
<p><br />
　だからこそ。<br />
　自分はこの場所（護廷十三隊）に立っていなければいけない、と。</p>
<p><br />
<br />
　四季は手を伸ばした。日番谷の少し小さなその右手を取った。背中では喧騒が刻一刻と近づいている。その小さな手を握りしめ、四季は一度だけ目を閉ざす。</p>
<p><br />
「ご武運を&hellip;！」</p>
<p><br />
　四季の声に日番谷は頷いた。<br />
「すぐに戻る」<br />
　振り返った四季はもう一度も日番谷を見なかった。<br />
「時間を稼ぎます」<br />
　一人、その場所を駆け抜けていった。<br />
　四季の背が、遠く、暗闇に消える。右手に持つ斬魄刀だけがいつまでも瞬いていた。</p>
<p><br />
「白鴎」<br />
　日番谷はその背を見送り、その場にいた四季の叔父の名を呼ぶ。<br />
「お前達には迷惑をかけた。いずれなんらかの形で仮は返す」<br />
「なに。御主には、返しても尽きぬ恩があるでな。気にする事はない。それで、納得がいかぬのならば、全てが終わったとき、上手い酒でも飲み交わそう」<br />
「&hellip;白鴎」</p>
<p><br />
「あの子を救ってくれたこと。感謝しておるよ」</p>
<p><br />
　白鴎は今はこの場所にいない甥の名を呼んだ。この手で守れはしなかったけれど、今彼はこうして自らの意志で剣を持つ。それが嬉しかった。<br />
「さあ、もう行け」<br />
「白鴎、お前は、」<br />
「なに、心配はいらぬ。ここは王族から授かった神器を祭った祠よ。護廷十三隊の死神といえど、安々と足を踏み入れていい場所ではない。幸い口は達者な方でな。上手く時間をかせいでみせよう」<br />
　ほくそえむ白鴎はまるで子供のように悪戯に目を細める。<br />
「道を塞ぐぞ」<br />
　ずらされた祠を白鴎は元の位置に戻す。日番谷が足を踏み入れた道の入り口がゆっくりと塞がれていく。最後の光が消えいこうとする時、これまでずっと言葉を発することのなかった十番隊の隊士達の中で数人が声もなく、動いた。<br />
「あ、」<br />
　驚くように声をあげたのは日番谷を無事に退路まで導く為、共にここまで来た隊士の一人だ。その隊士の目の前で、明らかに三人の仲間が、閉ざされゆく道の向こうに次々と飛び込んでいった。日番谷を追うように。<br />
　呆然とそれを見た隊士の目の前で、白鴎の手によって、道が閉ざされる。ガシャン、と最後の音を鳴らして、祠が戻された時、ようやく隊士は眠りから覚醒するように、はっと顔を上げた。</p>
<p><br />
「あいつら、ずりぃ&hellip;！」</p>
<p><br />
　隊士は日番谷と共に道の先に消えた三人の名を悔し紛れに叫んだ。その背に白鴎が、高らかに笑いながら、けれど、次の瞬間には少しの真剣さを伴って告げた。</p>
<p><br />
「来るぞ」</p>
<p><br />
　どたどた、と騒々しい足音がいくつも押し寄せてくる。その音に息を詰め、隊士は剣を握った。その反応のよせに白鴎は目を細めて微笑むと自らも矛を手にして、扉を見据えた。やがて、開け放たれた扉から、数十人の死覇装を来た死神が姿を現した。</p>
<p>「護廷十三隊の死神だ！此処に罪人日番谷冬獅郎が逃げたいう情報が入った！改めさせて頂く！」</p>
<p>　白鴎は押し入ってきた死神を見据え、大きな矛を振りかざし、その柄で一度大きく板張りの床を鳴らした。ドン、と空気を重く奮わせたその音に、勢いをそがれたかのように死神達の足が止まる。</p>
<p><br />
　白鴎の声が、威風堂々と大気に響いた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
「此処を王の神器を祭った社と知っての狼藉か！！王家から連なる宮司家、九条のみならず、神域を土足で荒らした上、血に染まる刀で穢すとは――、お前達、それ相応の覚悟があるのであろうな！！！」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>――</p>
<p><br />
　日番谷は暗い地下通路を走っていた。その左右には、見間違えようもなく三人の隊士達の姿があった。<br />
「お前ら&hellip;」<br />
　戻れ、と告げた。頑なにこの道の先には一人で行くと告げた。それを納得し、頷いていた彼らが、今迷わず己と共にこの道を走っている。日番谷は一本の細道を駆け抜けながら、自らの後を追う隊士達の名を呼んだ。<br />
「馬鹿やろうがっ」<br />
　もう、戻れはしまい。彼らは振り返れぬ道を辿った。それは知っているはずだ。それなのに、この道の先を見据える彼らの目には一切の迷いすらなかった。<br />
「お前ら、自分が何をしてるのか、分かってるのか。俺と共に行くということはお前達も罪人の名を負うことになるんだぞ」<br />
　隊士の一人が口を開く。皆が皆、日番谷の叱責に困ったように笑っている。<br />
<br />
<br />
「いいんです」<br />
　</p>
<p>　その左隣で、もう一人の隊士がその言葉に続く。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「僕らに、守るべき家族はいません」<br />
&nbsp;</p>
<p>　流魂街からの成り上がり。友と呼べる人もはるかな地でなくし、身よりもなく孤独であった存在を、安々と受け入れた。護廷十三隊十番隊、十番隊隊長。その人。もし、守るものが彼らにあるとすればそれはたった一つ、隊首と仰ぐその存在。<br />
「&hellip;お前ら、」<br />
　どれだけ隊首が護廷十三隊というその居場所を守る事を望んでも。<br />
　それを知っていても。</p>
<p>　<br />
<br />
　選べやしないのだ。</p>
<p><br />
<br />
「あの場所（護廷十三隊）に、失って困るものはありません」<br />
（貴方以外に）</p>
<p><br />
　この道以外に、選べやしないのだ。</p>
<p><br />
「僕らに、貴方以外に、守るべきものはありません」<br />
　</p>
<p>　日番谷は前を見据えた。こいつらは馬鹿だと、思った。愚かしい、と思った。それなのに、いとしい、とそう思った。それ以外にこの感情につけられる名を知らなかった。そんな事を感じる自分がおかしかった。振り切るように走り続けた。もう、戻れとは言わなかった。共に隣に並び、この暗い道を走りぬけた。彼らの意思の全てを背負い、共にあると覚悟した。</p>
<p><br />
　やがて、長く続いた暗い道が終わる。<br />
　流魂街の森の抜けた日番谷達を、東の空に上った朝日が差した。<br />
<br />
　鮮やかな白い光を散らすその場所に、<br />
　一人の少女が立っていた。</p>]]>
    </description>
    <category>王の帰還　（連載中）</category>
    <link>http://waraukadoniha.blog.shinobi.jp/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%88%E9%80%A3%E8%BC%89%E4%B8%AD%EF%BC%89/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%91%EF%BC%91%E3%80%80%E2%80%95%E6%9C%9D%E6%97%A5%E2%80%95</link>
    <pubDate>Sun, 26 Sep 2010 18:30:17 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">waraukadoniha.blog.shinobi.jp://entry/133</guid>
  </item>
    <item>
    <title>王の帰還　１０　―守るもの―</title>
    <description>
    <![CDATA[<!--shinobi1--><script type="text/javascript" src="http://x5.genin.jp/ufo/08384300b"></script><noscript><a href="http://x5.genin.jp/bin/gg?08384300b" target="_blank">
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<span style="font-size:9px"><img style="margin:0;vertical-align:text-bottom;" src="http://img.shinobi.jp/tadaima/fj.gif" width="19" height="11"> <a href="http://redstone.rentalurl.net" target="_blank">レッドストーン</a></span></noscript><!--shinobi2-->
<p><br />
<br />
「こちらです、隊長」</p>
<p>　駆け抜けていく背に、一人。また、一人と寄り添う。今は、覆面でその顔を隠しているけれど、声を聞けば分かる。彼らは皆、己を信じて剣を預けてくれた十番隊の隊士達だ。まるで、護られるように彼らに左右を挟まれ、日番谷は逃走経路を只管走りぬけた。<br />
「東の旧市街地をつけ抜ける経路も、地下水を南下する経路も既に隠密機動に押さえられていると、情報が入りました。」<br />
「九条&hellip;」<br />
　日番谷は隣に立つ、隊士の名を呼んだ。日番谷を先導する彼は、十番隊の上位席官を担った男だった。貴族階級を捨て自らの意志で死神の道を歩んだ青年。<br />
「九条家の屋敷から、地下通路を通って瀞霊廷を抜ける通路を確保しています。既に屋敷の人間には手配しました。急いで。ここが最後の退路です」<br />
　日番谷は青年の背を追って一つ頷いた。駆ける足を早め、隣に立ち並ぶ。刹那視線が合わさった。<br />
「恩に着る」<br />
　日番谷の言葉に、覆面の奥、青年が微かに微笑んだのが、日番谷には分かった。それから先は、夜の帳の中を声もなく、走った。</p>
<p>　風がそよぐような空気の揺らぎに気付いたのはそれからすぐだった。突き進む道の先、一本道が続くその向こう側でゆらり、と人影が二つ、日番谷達の前に立ちはだかっている。<br />
「止まれっ」<br />
　日番谷は咄嗟に声を張り上げた。その声に、ようやく道の先に人影があると気付いた隊士達が次々と歩を緩める。<br />
　ひらり、と。日番谷の隊長羽織が揺らめいてその動きを静かに止める。</p>
<p>「やれやれまいったねえ」<br />
「冬獅郎&hellip;」</p>
<p>　道の先。<br />
　日番谷の前に立ちはだかるのは二人の男。彼らはまるで、ここに日番谷が現れてほしくなかったというかのように、複雑な、と形容するしかない表情でそこにいた。</p>
<p><br />
「京楽&hellip;、浮竹&hellip;！」<br />
<br />
　日番谷は今同胞でもある彼らの名を呼ぶ。暗闇から姿を現した浮竹と京楽は、いっそ穏やかなほど静かにそこに立っている。<br />
「何で、お前らがここにいる」<br />
「それは僕らの台詞だよ、日番谷君。牢を抜け出して君は何をしてるの」<br />
「冬獅郎、すぐに戻れ。今なら、まだ間に合う」<br />
　日番谷の後ろで、九条がひっそりと、腰に携えている斬魄刀の柄を握った。<br />
（隊長、道を作ります。戦いますか）<br />
　目を伏せることで否を答えて、日番谷は再び、浮竹と京楽を見た。<br />
「藍染暗殺の容疑者を俺に定めて抹殺しろ、と言われたんだな、お前らはその命令を受けてここにいる。そう言うことだろう」<br />
　隊士達が抑えた逃走ルートは虱潰しにされているに違いない。全ては己を捕らえるために。<br />
「冬獅郎&hellip;」<br />
&nbsp;</p>
<p>「それが、護廷の総意か？」</p>
<p><br />
　京楽も浮竹も答えない。沈黙は是と、日番谷は知っている。</p>
<p><br />
「俺はやってねえ&hellip;！」</p>
<p><br />
　吐き捨てるように告げた。<br />
「冬獅郎、そんな事は分かっている！」<br />
「誰も君を疑っているわけじゃない」<br />
「何言ってやがる、その護廷の命でお前らはここにいるんだろう」<br />
「ここでお前が脱獄したらそれは認めたも同じだ。冤罪を訴えるなら、今ここで全てを台無しにするな。俺も京楽もお前の為に嘆願書を集めている。明日四十六室直訴するつもりだ。諦めてはいかん」<br />
　その浮竹の言葉に、日番谷は何かが切れたように声を絞り出した。<br />
「&hellip;何寝ぼけた事言ってやがる」<br />
「何？」<br />
「冤罪？嘆願書だと？」<br />
「冬獅郎&hellip;」</p>
<p><br />
<br />
「そんな事はどうだっていい&hellip;！」</p>
<p><br />
　弾かれるように顔を上げたのは、浮竹だけではなかった。そこにいた日番谷の背後を護るように立っていた十番隊隊士達も皆、驚くようにその顔を上げた。日番谷の声は、切なく、悲しくすらあった。<br />
　天を振り仰ぐ。日番谷の手が瀞霊廷をさす。そこには十三の文字が描かれた隊舎が連なる。その向こうには双極。静謐ささえある盾と矛。かつて、終焉の地と呼ばれた処刑場、その場所が見える。</p>
<p>「良く見てみろ！！」<br />
「！！」</p>
<p><br />
「藍染は死んだ！！」</p>
<p>　誰かが厭うているのだ。この存在を許す事ができない、何かがある。その上での謀り。用意周到に、それぞれが、決して刀を交えたくない相手と潰しあっていくではないか。<br />
　そこには既に死がある。<br />
　既に、取り戻しようもない&rdquo;死&rdquo;がある。</p>
<p>　<br />
　隊の戴。孤高の場所。此処で、俺は、俺たちは、<br />
　――護ると誓ったのではなかったか。</p>
<p><br />
<br />
　この場所を。</p>
<p><br />
「冬獅郎&hellip;」<br />
「吉良と雛森は刀を交えて、互いに必要のない打撃を与え合った！」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「阿散井は、旅禍と交戦して負傷！」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「十一番隊は、旅禍の襲撃で壊滅！」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「皆がバラバラだっ&hellip;！！」<br />
「冬獅郎、一体何の話を」<br />
&nbsp;</p>
<p>「まだ分からねえのか！今！！この護廷で、戦える人間がどれだけ残ってると思っている！」</p>
<p><br />
「！」<br />
「藍染は死んだ！！尸魂界を滅ぼそうとしている何者かを突き止めたと残した藍染の手紙は誰かの手によって改竄されている！」<br />
「&hellip;」<br />
「戦力は分散！！」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「朽木の処刑は早まり続け！」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
<br />
「その上、今度は護廷の命令と証して、俺とお前らで潰しあいか？！」<br />
「&hellip;&hellip;！」</p>
<p><br />
「冤罪を訴えると？誇りを護ろうとでも？次にはこの座を失うな、とでも言うか？<br />
　ああ、たいした優しさだ。泣けてくる&hellip;！」</p>
<p>「冬獅郎&hellip;」</p>
<p><br />
「お前らはっ！」<br />
　あの日、己の言葉に命すらかけると告げた咲来の声が耳に蘇った。振り仰ぐ手は、何もない空を掴む。この瀞霊廷で、護るべきものは。護ってきたものは一体なんだ、という。<br />
（俺たちが守るものは、）</p>
<p>「これ以上、何人犠牲を払うつもりだ！何人死ねばお前らは気付く！次の犠牲者は、伊勢か？小椿か？清音か？松本か？<br />
　尸魂界が滅んだ後か！冗談じゃねえ&hellip;！<br />
　これ以上、自分の無能で、仲間を危険に晒すつもりは、俺にはねえぞ&hellip;！！」<br />
&nbsp;</p>
<p>浮竹と京楽の表情があからさまに変わるのが、見えた。それでも言葉は止まらなかった。</p>
<p><br />
　そこには既に取り戻しようもないものがある。<br />
　決して、取り戻しようもないものがある。<br />
　<br />
　これ以上失えない。</p>
<p><br />
「正哉は死んだ！」</p>
<p><br />
護る事もできずに、<br />
見知らぬ地で。<br />
<br />
<br />
「正哉は、死んだ&hellip;」<br />
<br />
<br />
　正哉。<br />
　護廷十三隊の死神に命を狙われていた誰かを守って死んだというかつての部下。その潰れそうな声に、後ろに控えていた隊士達が次々と日番谷の名を呼んだ。<br />
&nbsp;</p>
<p>　敵は、市丸か。<br />
　護廷十三隊の権威すら動かす違う誰かか。</p>
<p><br />
　手を差し伸べるべき存在を、知らず失った悲しみは後悔に、似ている。<br />
　ならば、せめて、俺たちは、剣を取るべきだ。</p>
<p><br />
　見誤るな。<br />
「自分の無能に、」<br />
　護るべきもの。その場所。</p>
<p><br />
　見誤るな。<br />
<br />
　<br />
「嘆くだけの隊首なら、この座などくれてやる&hellip;！」</p>
<p><br />
　息を詰めて自分を見つめる、京楽と、浮竹に、日番谷は静かに告げた。</p>
<p>「道を空けてくれ、京楽。浮竹」<br />
「冬獅郎&hellip;」<br />
「お前らと戦うつもりは、ない。朽木の処刑までには戻る。俺には、守るものがある。その為に此処を離れる。お前らが請け負った護廷の命など知ったことか」</p>
<p>　一歩、突き進んだ日番谷の背を、京楽と浮竹は振り返った。</p>
<p><br />
<br />
「俺は、もう誰も失うつもりはない」</p>
<p><br />
<br />
　駆け抜けていくその背を二人は追わなかった。追えなかった。<br />
　闇にきえゆく十を、いつまでも見ていた。<br />
&nbsp;</p>
<p>「まいってねえ、どうも」<br />
「京楽、お前はどうせ、気付いていたんだろう」<br />
「うん、まあ、なんとなく誰かの企みが絡んでいるんだろう、くらいには察していたけどね」<br />
　ああもはっきり言われるとねえ。面目が立たないねえ。<br />
「それで、浮竹？君はいつまで、落ち込んでるんだい？日番谷君に、あそこまで言わせておいて、まさかこのままってわけにもいかないだろう！」<br />
「決まってる！冬獅郎にだけ戦わせられるか！」<br />
「うん、君ならそういうと思った」</p>
<p><br />
「処刑を止めるぞ」</p>]]>
    </description>
    <category>王の帰還　（連載中）</category>
    <link>http://waraukadoniha.blog.shinobi.jp/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%88%E9%80%A3%E8%BC%89%E4%B8%AD%EF%BC%89/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%91%EF%BC%90%E3%80%80%E2%80%95%E5%AE%88%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%AE%E2%80%95</link>
    <pubDate>Sun, 26 Sep 2010 15:24:18 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">waraukadoniha.blog.shinobi.jp://entry/132</guid>
  </item>
    <item>
    <title>王の帰還　０９　―忠誠―</title>
    <description>
    <![CDATA[



<!--shinobi1-->
<script type="text/javascript" src="http://x5.genin.jp/ufo/08384300a"></script>
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<!--shinobi2-->
<p><br />
&nbsp;</p>
<p>「白伏だな」<br />
　砕蜂は、座敷牢の分厚い壁に大きく空いた穴を一瞥し、吐き捨てるように告げた。日番谷を捕らえた牢の一室。穿たれた壁の穴から冷たい風が吹き込む。<br />
「殺されるわけでもないのに、何故脱獄など、」<br />
　そこには捕らえたはずの十番隊隊長の姿は既にない。穿った壁の穴から、そこにいたはずの人間は既に脱出したのだろう。霊圧の残滓すらないその場所には、沈殿する静けさがあるだけだ。<br />
「それは、あの男が、藍染暗殺容疑を認めたという事に他ならないだろう」<br />
　その冷ややかな声に、日番谷の脱獄にいち早く気付いた二番隊の隊士は息を飲んだ。<br />
「でも、砕蜂隊長もあの手紙は改竄された可能性があると&hellip;」<br />
「容疑者が逃げ出したとなれば動かぬわけにはいくまい」<br />
「それは、あの方を殺す、と？」<br />
　砕蜂は部下の問いには答えず、誰もいない牢に背を向け歩き出した。</p>
<p>「大人しく捕まっていればよかったものを」</p>
<p>　例え法廷に立たされようと身の潔白を示せる機会は訪れたはずだ。脱獄をした今となってはそれすらかなわない。<br />
　砕蜂は一切のぬくもりを脱ぎ捨て、背後からついてくる部下に告げた。</p>
<p><br />
「刑軍を出動させるぞ」</p>
<p>　遵守すべき規範。<br />
　それが、護るべきものの全て。</p>
<p><br />
――</p>
<p><br />
　日番谷は、闇に紛れるように一人、走っていた。風よりも早い、瞬歩。流れ去っていく風景には目を留めない。進まなければいけない。辿り着かなければいけない場所がある。<br />
（――主っ！）<br />
　不意に空気を引き裂くように背中に背負った斬魄刀が、リィン、と鳴った。斬魄刀、氷輪丸の声。その鋭さに、日番谷は反射のように振り返った。振り返った先。日番谷が立った今駆け抜けてきた暗い道を人影が一つ、ゆらりと揺れた。<br />
「&hellip;&hellip;誰だ、」<br />
　潜めた声はそこに現れた人にも届いただろう。脱獄を知り日番谷を追った刑軍の人間か。それとも、四十六室の命を受けた護廷十三隊の死神か。どちらにしても刀を交えぬわけにはいくまい。<br />
　張り詰めた空気に、微かな緊張感を抱いて、暗闇に目を凝らすように、日番谷が目を細めた時、<br />
「こんな、所にいたのね」<br />
　いる筈のない人間をそこに見て日番谷は息を飲んだ。</p>
<p>「雛森&hellip;っ」</p>
<p>　涙に濡れた目を向けて、姉と慕ったその人が剣を抜いてそこに立つ。切っ先を迷わず己に向けて、敬愛する隊首の仇を取る為、貴方を討つ、と告げる。<br />
　驚愕に見開いた日番谷の目に、雛森の手の中で握られた封書が止まった。<br />
（あれは、二番隊が押収した藍染の手紙&hellip;！）<br />
　悲鳴のように、泣き叫んで、雛森は剣を振り上げた。それを見上げ、日番谷は全てが欺きの中にある事を今更ながらに知った。<br />
「馬鹿やろうっ雛森！　よく、考えろ！！」<br />
　この純粋で一途な姉は、自分の剣を預けた隊首を慕っていた。それは誰もが知っていた。信じ仰ぐ存在。それは、もはや信仰にすら近い。私の命はこの人の為にある、という。切ないほどの傾倒。<br />
「&rdquo;自分が死んだから、代わりにお前に戦え&rdquo;だと？！」<br />
「シロちゃ&hellip;」<br />
「藍染がそんな言葉を言うと思うか！！」<br />
　その藍染が死の間際に認めたという手紙。そこに綴られた己の名。<br />
「俺の知る藍染はな！勝ち目のねえ戦いに一人で出向く馬鹿でも、その尻拭いを部下にさせるような腰抜けでもなかったぜ！」<br />
　瀞霊廷を滅ぼす敵を討ってはくれまいか、と締めくくれたその手紙が、何故姉の手に渡ったのかは分からない。<br />
　けれど、姉は藍染のその言葉を信じ、今、血が滲むほどに剣を握りながら、悲痛な声を吐く。<br />
「だって！」<br />
「&hellip;」<br />
「書いてあったんだもの！」<br />
「っ」<br />
「見間違えるはずがない！あれは藍染隊長の字だったもの！」<br />
「雛森」<br />
「あたしだって信じたくなかった」<br />
　心が悲鳴をあげる。<br />
「でも、藍染隊長がそう言ってるんだもん！！あたしは、あたしは――&hellip;」<br />
　振り下ろされる切っ先をひたすらよけながら、日番谷は姉の心の叫びを聞いた。その時、雛森が振りかざす剣の向こう。闇に紛れた建物の影に立つ、一人の男の姿を日番谷は、見た。視線が確かに交わった。<br />
「そうか&hellip;&hellip;」<br />
　全てが連なる。その男の元に。否応でも。導き出される。<br />
「&hellip;あたし、もう、どうしたらいいか分からないよ、シロちゃん&hellip;」<br />
「そうか、これもか&hellip;」　</p>
<p><br />
　欺かれるを恐れるな。<br />
　全ては既に欺きの上にある。</p>
<p><br />
「う、あああああああっ！！」<br />
「これも、全部てめえの仕業か！！！」</p>
<p><br />
　雛森が剣を振りかざすと同時。日番谷は斬魄刀の柄を握った。日番谷が見据えるは、姉と慕った人ではない。全ては謀りの上を歩く己たちを建物の影から、諦観し、笑う男。</p>
<p>「市丸！！！！」</p>
<p>　立ちはだかる姉を退けて日番谷はそれでも剣を握った。冷たい床に横たわった姉の両手が赤く染まっているのが、見えた。建物の影から静かに市丸が姿を現す。<br />
「&hellip;&hellip;藍染だけじゃ足りねえか」<br />
　市丸は答えぬまま笑うだけだ。<br />
「正哉だけじゃ、足りねえかっ！」<br />
「はて、なんのことやら」<br />
「言った筈だぜ、市丸。俺の前で誰かに血を流させたら、」<br />
　抜刀。鯉口を切る音がやけに鮮明に耳を打った。</p>
<p><br />
「てめえを殺す！！！」<br />
　　<br />
　天候さえ揺るがす霊圧を前にして、互いに抜きあった刀が妖しげに光る。防戦一方だった、市丸が、切っ先を繰り出した時その切っ先が向かう矛先を知って日番谷は息を飲んだ。<br />
「雛森！」<br />
　間に合わない。刀は既に姉に向けられている。<br />
　こんな風に失うのか。<br />
　こんな風に、</p>
<p>（俺はまた、誰も守れずに誰かを失うのか）</p>
<p>　正哉を失ったように。<br />
　友を失ったように？</p>
<p>　ガキィン</p>
<p>　押し寄せた絶望の向こう側。今、一本の剣が市丸の切っ先を阻む。それはもう随分と慣れ親しんだ霊圧。信じ、背を預けてきた存在が、確かに、雛森の前に立っていた。<br />
「松本&hellip;」<br />
「すみません、隊長。命令どおり、隊舎に控えていましたが、氷輪丸の霊圧を感じて、来てしまいました」<br />
　市丸の切っ先をその刀で受け、乱菊は静かに告げた。<br />
「刀をお引きください、市丸隊長。ひかなければ――」</p>
<p><br />
「隊長っこちらです！」<br />
「おまえらっ」</p>
<p>　日番谷はその時、そこに現れたのが副官の乱菊だけではない事をようやく知った。声に呼ばれ振り返った先に、見間違えようもない部下達の姿がある。その誰もがあの時、日番谷が二番隊に捕らえられそうになったその場所で、砕蜂に刀を向けた十番隊の隊士達。<br />
「退路を確保してます！急いでっ時間がありません」<br />
　急かされるように、背を押され、日番谷一度だけ乱菊を振り返った。視線は合わない。乱菊は市丸だけを見据えている。受けた刃をなぎ払い、剣を構えた乱菊の隣に、次々と十番隊の隊士達が隣に立ち並ぶ。その姿を見て、日番谷は呻くように息を吐いたが、一度瞼を閉ざし、振り切るように地を駆けた。もう二度と振り返らなかった。走り向けていく日番谷の背に、乱菊の声が一度だけ届いた。</p>
<p>「退かなければ、此処からは、私たち十番隊がお相手致します&hellip;！」　<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>王の帰還　（連載中）</category>
    <link>http://waraukadoniha.blog.shinobi.jp/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%88%E9%80%A3%E8%BC%89%E4%B8%AD%EF%BC%89/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%90%EF%BC%99%E3%80%80%E2%80%95%E5%BF%A0%E8%AA%A0%E2%80%95</link>
    <pubDate>Sun, 26 Sep 2010 06:16:29 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>王の帰還　０８　―信頼―</title>
    <description>
    <![CDATA[<!--shinobi1-->
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<!--shinobi2-->
<p><br />
<br />
　耳に残るはあの日の、願い。</p>
<p><br />
　捕らえられた牢の中は夜よりも深い闇に覆われていた。まどろみの中をたゆたうように、浅い眠りの中にいた日番谷は、ぴりり、と空気を奮わせたかすかな笛のような音に、弾かれるように覚醒した。<br />
　冷たい夜の帳が全てを覆う。連なる格子には目もくれず、狭い座敷牢の明かりの灯らぬ壁を日番谷は振り返った。そこには、直系三十センチほどの明かり取りの窓があるだけだ。一度だけ格子を振り返り、そこに見張りの人の気配がない事を確認して、日番谷は静かに壁に背を預けて立った。まるでそれを見計らったかのように、こつり、と壁が、戸を叩く時のように一度だけ鳴った。</p>
<p>「&hellip;&hellip;松本か、」</p>
<p>　声は、虫なりのように小さなものだ。けれど、確かに紡いだその声音に壁越しにくぐもった声が返された。</p>
<p>「はい」<br />
「&hellip;来るのが、遅い」<br />
「誰かさんが言い訳もせずに、牢に入っちゃうからうちの隊士達を宥めるのに、大変だったんですよ、」<br />
　非難をこめたその声は少しの笑いを含んでそう告げた。<br />
「&hellip;何分話せる」<br />
「多く見積もってこの機械で声が通るのは三分です」<br />
　厚い壁越しに届く音声は、技術開発局で作られた特殊な装置が使われている。今まさに、日番谷が背を預けたその壁の向こう側にいるであろう、己の副官に日番谷は告げた。<br />
「あいつらは、」<br />
　日番谷の告げたその言葉が指し示す人物に乱菊は気付かれないだろうと分かっていても、壁越しにひっそりと苦笑した。<br />
　己の置かれた立場こそよほど、危ういというのに、いつでもこの隊首が案ずるのは己が部下なのだ。<br />
「地下牢で二番隊と交戦した隊士達は皆、自宅で謹慎させてます。驚きましたよ、任務で瀞霊廷を少し離れてる間に、まさか、隊長が藍染隊長暗殺の容疑で捕まった上に、あの子達がそれを止めようと砕蜂隊長に切りかかっていったなんて、」<br />
　あの子達もやるわねえ、と、ころころと笑う乱菊に日番谷は溜息を吐く。<br />
「笑い事じゃねえぞ、あの場では大人しく刀を引いたから良かったが、下手したら拘置どころじゃすまねえ。馬鹿なことはするな、とよく言っておけ」<br />
「分かってます。笑い事なんかじゃありませんよ。私達の隊長が疑われるなんて、」<br />
　日番谷の言葉を無視した乱菊は、あの時隠密機動の人間に躊躇わず切りかかっていった隊士達のように、日番谷の潔白を信じてやまない隊士の一人だ。その言葉に、憤る方向を間違えている、と日番谷は再び溜息した。だが、それを正している時間はない。いつこのやり取りが牢の見張りに気付かれてもおかしくないのだ。日番谷の耳に、再び乱菊の声が届く。<br />
「それで？その場にいた隊士に言付けて、私をここに呼び出して、隊長はどうするつもりなんですか？」<br />
　まさか、このまま大人しく捕まっているわけじゃないんでしょう、と笑って告げられたその言葉に、小さく、けれどはっきりと日番谷は告げた。</p>
<p><br />
「俺は、瀞霊廷を離れる」<br />
　　</p>
<p>　壁の向こう側で乱菊が苦笑したのが、日番谷には分かった。まるで、初めからそれを告げる日番谷をわかっていたかのようだ。<br />
「隊長は、きっとそういうと思ってました。それで？私は門を使わずにすむ脱出経路を確保すればいいんですね」<br />
「ああ、お前らに頼むのはそこまでだ。その先には手を出すな。お前もだ」<br />
&nbsp;きっちり一呼吸分、沈黙を落とした後で乱菊は告げた。<br />
「あの子に、会いに行くのね？」</p>
<p>　耳に残るは、あの日の願い。<br />
　<br />
　――咲来。<br />
　それは、今は何処にもいない部下の血の繋がった妹。</p>
<p>「だから、大人しく捕まったんですか？足取りを消してあの子に会うために？」<br />
　あの日、その願いに命すらかけると言って見せたあの少女の願いを聞き届ける為。日番谷は今、罪人の汚名を背負ったままそれでも、瀞霊廷を離れるという。<br />
「ねえ、隊長？それなら、何で、二番隊と交戦したあの子達に剣を取らせてあげなかったんです？」<br />
「&hellip;松本、」<br />
「隊長の為に剣を取ったあの子達は、例え離反しても貴方に着いて行くって言ったと思うわ」<br />
「馬鹿言うな。咲来の話は何の確証もない話だぞ。その為にあいつらに、これまで培ってきたもの全部蔑ろにするような事をさせられるか、あいつらの護るべき家族も仲間も地位も全部&rdquo;此処に&rdquo;あるんだぞ」<br />
「でも、貴方なあの子を信じて、全部を投げ出そうとしている」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「正哉の妹だったから」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「ふふ、」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「ねえ、何であの子達が躊躇わずに貴方に剣を捧げられるか知ってます？」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「そんな貴方だったから」<br />
　たった一人の部下。その人が命を賭したという守るべきもの。その為に日番谷は自らだ抱え護ってきたものの全てをここにおいて、それでも行くと告げる。<br />
　共に、行く。とは、言わせてくれないのだ。その背に背負うものを共に負うとは言わせてくれない。代わりに寄せられたのは、十番隊隊士達に向けた、絶対的な――信頼。<br />
「松本、」<br />
　やがて、通信の終わりを告げる微かな機会音が耳に届いた。</p>
<p><br />
「俺がいない間、雛森と十番隊を頼む」</p>
<p><br />
　最後に届いた日番谷の声に、乱菊は既に、通信能力を失った機械の前で、ひっそりと、ずるい男、と呟いた。<br />
　<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>王の帰還　（連載中）</category>
    <link>http://waraukadoniha.blog.shinobi.jp/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%88%E9%80%A3%E8%BC%89%E4%B8%AD%EF%BC%89/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%90%EF%BC%98%E3%80%80%E2%80%95%E4%BF%A1%E9%A0%BC%E2%80%95</link>
    <pubDate>Sat, 25 Sep 2010 18:43:38 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>王の帰還　０７　―容疑―</title>
    <description>
    <![CDATA[

<!--shinobi1-->
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<!--shinobi2-->
<p><br />
&nbsp;</p>
<p>　混乱はすぐに、訪れた。<br />
<br />
<br />
「ひ、日番谷隊長っ――」<br />
　雛森を捉えた地下牢。冷たい格子の向こう側で泣きはらした目を閉じて、規則正しく呼気を吐き、眠りに落ちた姉の姿に、日番谷が何かを思うように目を細めた時、唐突にその声は、響き渡った。<br />
「隊長っ！　逃げてっ逃げて下さっ&hellip;」<br />
「！」<br />
　門を見張っていた隊士の悲鳴は一瞬で掻き消えた。爆音と、破壊音が掻き消したからだ。同時に日番谷の耳に届いたその音に、何事か、と日番谷が振り返るよりも早く、&rdquo;その人&rdquo;は、舞う土煙の中からゆらり、と姿を現した。<br />
　死覇装ではない。<br />
　けれど、纏うは、同じ漆黒。<br />
　漆黒の瞳を僅かに揺らし、現れた人は、戸惑う日番谷の前で、厳かに告げた。<br />
「&hellip;護廷十三隊十番隊、隊長。日番谷冬獅郎。&hellip;いや、罪人、日番谷冬獅郎。藍染殺害の容疑で貴様を連行する」</p>
<p>「砕蜂！」<br />
　<br />
　護廷十三隊二番隊隊長、否、隠密鬼道総司令官、――砕蜂。</p>
<p>「お前、」<br />
　日番谷は、告げられた言葉よりも、砕蜂のその姿に驚愕した。砕蜂は今、死神の証である死覇装を脱ぎ捨て、暗部だけが許された漆黒の着衣を着て日番谷の前に姿を現した。その右手には刀。既に抜刀されたその刀から、ぽつり、と赤い血が滴っている。それは暗に、既に誰かと交戦したと知るには充分だった。<br />
「斬ったのか、俺の部下を」<br />
　答えは自然に導き出された。目の前の暗部の人間は質問には答えない。ただ、一度だけ、地下牢の門を振り返り、そこにいたはずの十番隊隊士の名を、消え入りそうなほど、小さな声で呟いた。一度振り返った目は、再び日番谷を見据え、皮肉げに笑った。<br />
「お前に会わせろと言っても言う事を聞かぬのでな」<br />
「答えろ！　お前は俺の部下を斬ったのか！」<br />
「案ずるな、死んではいない」<br />
「お前っ」<br />
　その事実に押し寄せるような怒りのまま、まさに切りかかろうせんばかりの日番谷を砕蜂は、ただ冷たい表情で見据えていた。</p>
<p>「人の身を案ずるよりも、自分の心配をしたら、どうだ。貴様は既に隠密機動の人間に囲まれている」</p>
<p>　ぎらり、と幾つもの銀光が日番谷の視界の端でチカチカと、走った。それは、刀が醸し出す光。その全ての刃が今、日番谷に向けられている。日番谷はその全ての刃に視線を走らせ、そしてその真ん中に立つ砕蜂を見据えた。<br />
「&hellip;どういうつもりだ」<br />
　声は、冷たい地下牢に静かに響き渡った。日番谷の言葉に砕蜂の瞳に険しさが宿る。<br />
「それは、こちらのセリフだ。日番谷」<br />
「な、」<br />
「本日、早朝。私の部下が、殺された藍染惣右介の自宅捜索行った」<br />
「&hellip;何の話だ、」<br />
「しらばくれるか？でも、これを見ればそうは行くまい。私の部下が、その部屋で見つけたものだ」<br />
　ひらり、と。砕蜂は胸元から一枚の封書を差し出す。細い筆で綴られた見知った文字がそこに連なっていた。<br />
「それは、」<br />
「宛名は其処に捕らえられた護廷十三隊五番隊副隊長雛森桃」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「差出人は、同隊隊長、藍染惣右介」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「あの男が死の間際に認めた手紙だ。そして、その手紙はこう書き始まる」</p>
<p>　そうして告げられたのは思いもよらない現実。<br />
　かつて、共に同じ戴に立った男の文字は確かに最後に、自分の名をそこに綴った。</p>
<p>「俺が、藍染を殺した、だと&hellip;？」<br />
「言い逃れがあるならば聞いてやろう」<br />
「砕蜂、俺はっ」<br />
「牢の中で。ゆっくりとな。」<br />
「っ」<br />
　ぎらり。幾つもの刃が構えられる。<br />
　錯綜する視線の中で、日番谷はたった一人、砕蜂だけを見据えていた。</p>
<p>　謀られている。<br />
　何か、知らぬ大きなものに。</p>
<p>　何故、それに気付かぬ。</p>
<p>　苛立ちを隠さず瞳に現した日番谷の姿に目もくれず、まるで、何かの合図のように、砕蜂の右手がゆっくりと天に向けられる。まさに、その時。<br />
　砕蜂の背後の壁が、爆音と共に穿たれた。<br />
「何っ？！」<br />
　突如、耳を劈いた音に、砕蜂たち、隠密機動の人間が困惑と共に振り返ったとき、舞う土煙の中でいくつかの金属が弾かれるような音を聞いた。ゆらり、と揺れた人影が次々と、穿たれた壁の穴から姿を現して、そこにいる、隠密機動の人間に刀を向けていく。視界も定まらぬその場所で、その声はやけに鮮明に日番谷に届いた。</p>
<p>「日番谷隊長、逃げてっ」</p>
<p>　胸の奥、掻き毟りたい衝動に駆られた。やがて、土ぼこりが散る時、日番谷は確かにその場所に現れた十番隊隊士達の姿をその目で見て、呻くように目を閉じた。<br />
　そこに現れた隊士達は次々と、隠密機動の人間に向かって抜刀していく。そこに躊躇いはない。その躊躇いのなさに、今まさに日番谷は彼らの行為の真意を悟る。</p>
<p>　手紙は改竄されたものだ。<br />
　日番谷自身が、藍染を殺していないと断言できる以上。そこにしか、答えはない。けれど、筆跡は同じである以上、隠密機動に、それは、今通用する言葉ではない。二番隊は、藍染暗殺の疑いのある日番谷を探して、隊舎にも向かっただろう。己を、捕らえるために。<br />
　ならば、今ここに現れた部下達は、何のために、此処で剣を抜く。<br />
　その意味に気付いたとき、日番谷は横面を張り飛ばされたような衝撃を感じた。</p>
<p>　全てはただ、自分を護る為だけに。</p>
<p><br />
「やめねえかっ！」</p>
<p>　一触即発のその場所で。日番谷は声を張り上げた。息を吸うことすら苦しい、と感じた。たった一言。日番谷のその声響いた途端、刀を交える音は一瞬にして止んだ。<br />
　十番隊隊士達が驚くように、皆日番谷を振り返った。彼らを見据え、日番谷は呻くように言葉を続けた。<br />
「お前ら、剣を降ろせ」<br />
　それは、明確に、部下達に向けて告げた命令だった。<br />
「隊長？！」<br />
　信じて疑わないのだ。<br />
　彼らは己が隊首の潔白を信じてやまない。<br />
　だからこそ、今ここで剣を取り、自分を逃がそうとするのだろう。<br />
　そこには命を駆ける覚悟すら見える。<br />
（こんな馬鹿な話があるか）<br />
「どうして、」<br />
「貴方は罪を認めると？！」<br />
　ひどい、裏切りにも取れる日番谷の言葉に、隊士達は息を飲んだ。<br />
<br />
　まさか、そんな筈はない。<br />
　日番谷が藍染を手にかけるなど。そんな事があるものか。<br />
　隊士達の目は暗にそれを語っている。それに再び苦しげに日番谷は息を吐いた。<br />
<br />
「いいから、言うとおりにしろ。俺の言う事が聞けないのか」<br />
「しかし、」</p>
<p>「全員、剣を降ろせっ」<br />
　<br />
　かつてないほどの怒声で、日番谷は部下達に告げた。かつて、一度も。彼らをこんな風に怒鳴りつけた事はない。その声に、いきりたっていた隊士達は苦汁を飲み込むかのように、息を詰めた。</p>
<p><br />
　たった一つ、この存在を護る為だけに。</p>
<p>（お前らが全てを失うなんて）</p>
<p><br />
「もう一度言う。全員剣を降ろせ」</p>
<p><br />
（こんな馬鹿な事があるか、）</p>
<p>　その静かな声に。<br />
「隊長&hellip;」　<br />
　彼らはうなだれるように剣を降ろした。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>今、静まり返ったその場所で、日番谷はこの混乱の中でも、一人冷静でい続けた砕蜂を見据えた。<br />
「手紙には確かに俺の名が記されていたんだな、」<br />
　確認する声音に、戸惑いはない。<br />
「そうだ」<br />
「俺が藍染を殺した、と？」<br />
「そうだ」<br />
　砕蜂の目は、肯定も否定もなく、ただ事実だけを告げている。日番谷は、一つ頷いて、戸惑う隊士達の間を一歩歩き出した。</p>
<p>「分かった。お前の言うとおりにしよう」</p>
<p>「な、」<br />
「隊長っ！」</p>
<p>　日番谷の背に、十番隊隊士達の声が次々とかかる。彼らの間を突き進む時、日番谷は一度だけその歩を緩め、すぐ隣にいた十番、隊士に誰にも届かぬ声で呟いた。誰も気付くことのなかったその行為に、一度だけ驚くように目を見開いた隊士は、次の瞬間にはその眦を下げ、日番谷の背を見送った。<br />
　突き進む。砕蜂の横をすり抜ける時、日番谷は落ち着き払った声で、それでもこれだけは告げなければいけない、というかのように、言葉を紡いだ。<br />
「こいつらは全員俺とは無関係だ。藍染暗殺に関わっていない。それだけは言っておく」<br />
「私は言ったぞ？」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「藍染殺害の容疑で&rdquo;貴様&rdquo;を連行する」<br />
「そうか」<br />
　再び、歩き出した日番谷の歩に既に迷いはない。</p>
<p>「なら、いい」</p>
<p>　砕蜂は、そこに現れた十番隊隊士達の姿を振り返った。いっそ、冷ややかなほどの声で、その言葉を紡いだ。<br />
「本来ならば、奴を逃がそうとした貴様らの行為だけで同罪に値する」<br />
「っ！」<br />
「だが、ここでした行為は不問にしてやる。物分りのいい隊首に感謝するんだな」<br />
　<br />
　やがて立ち去っていく隠密機動の人間の真ん中で、幼き隊首の背に背負われた、十の文字が風に翻るのを彼らは、見た。<br />
　それは、思わず平伏したくなるほど凛然とした姿だった。<br />
　まさに、隊首と信じ仰ぐ存在がそこにあった。<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>王の帰還　（連載中）</category>
    <link>http://waraukadoniha.blog.shinobi.jp/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%88%E9%80%A3%E8%BC%89%E4%B8%AD%EF%BC%89/%E7%8E%8B%E3%81%AE%E5%B8%B0%E9%82%84%E3%80%80%EF%BC%90%EF%BC%97%E3%80%80%E2%80%95%E5%AE%B9%E7%96%91%E2%80%95</link>
    <pubDate>Sat, 25 Sep 2010 16:51:44 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">waraukadoniha.blog.shinobi.jp://entry/129</guid>
  </item>
    <item>
    <title>風邪が流行りました　５</title>
    <description>
    <![CDATA[<!--shinobi1--><script type="text/javascript" src="http://x5.genin.jp/ufo/083843002"></script><noscript><a href="http://x5.genin.jp/bin/gg?083843002" target="_blank">
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<span style="font-size:9px"><img style="margin:0;vertical-align:text-bottom;" src="http://img.shinobi.jp/tadaima/fj.gif" width="19" height="11"> <a href="http://sapporo_kita.jpnz.jp" target="_blank">札幌市　北区　賃貸</a> <a href="http://sell.jpnz.jp" target="_blank">マンション売却</a></span></noscript><!--shinobi2-->
<p><br />
　隊首会は万事平常どおりに行われた。<br />
　最年少の隊長を誇る十番隊隊長、日番谷冬獅郎のその肩に、見慣れたピンク色の髪の少女が鼻歌まじりに乗っているのは、大人であった他の隊長達は、――否、それは単に面倒ごとに関わるのを避けたのかもしれないが――、誰もが黙した。ただ、一人十三番隊隊長その人だけが、日番谷の肩の上に乗って、乱菊に持たされたおせんべいを少年の頭の上でぱりぱりと食べているやちるの姿に「お！やちるじゃないか！」と、声をかけ、「お前の好きなまんじゅうもあるぞ、食べるか」と、言いかけたところで、左隣から強烈な肘鉄が食らわされて、ごふっと呻いた。ねめつけるように隣を見れば、長の友人である、八番隊隊長京楽に「しっ！察してやりなさいよ、浮竹。日番谷君がかわいそうじゃないの」と、言われる始末である。<br />
「そ、そうか？」<br />
　それこそ異様な光景であったが、誰も最後まで隊首会に現れたやちるの存在を言及するものはいなかった。触らぬ神に祟りなし。ある種の緊張と気遣いの狭間で、隊首会は閉廷した。</p>
<p><br />
　長い回廊を渡り、十番隊隊舎に歩を進めていた日番谷がその気配に気付いたのは、肩の上のやちるが、三曲目の鼻歌を紡ぎだしたその時だった。背中から向けられる陽光がじりじりと二人の背中を焼いた。もう随分と日は長くなったがそれでも西日はまじかに迫っていた。長く長く伸びる影を前にしながら、日番谷はゆるりと歩を止めて、何事もなく肩の上のやちるを地に降ろした。<br />
「シロちゃん？」<br />
　見上げてきた瞳に問う。<br />
「草鹿、あそこの楠が見えるか」<br />
　指差した方角。遥かな向こうに一本の楠が聳え立つ。それを見てやちるは、うん、と一つ頷く。<br />
「お前はここからあの木の根元まで何秒でいける？」<br />
「1.5秒！」<br />
　瞬歩は得意中の得意だ。胸を張って答えたやちるに日番谷は悪戯を仕掛ける時のような笑みを浮かべて息をこぼす。<br />
「なあんだ、たいしたことねえな。俺は1.3秒で行けるぜ」<br />
　その言い様はえらくやちるの自尊心を傷つけた。きっ、と日番谷を睨み上げ、頬をぷくうと膨らませる。<br />
「やちるだって行けるもん！」<br />
「どうだか」<br />
「本当だもん！　シロちゃんより私の方が早いんだから！」<br />
「なら、試してみるか？あの楠の下に最初に辿り着いた方が勝ち」<br />
「いいよ、ぜえーったい、負けないんだからね」<br />
「よし、数を数えろ」<br />
　言われるまま、やちるは大きく口を空けた。日番谷は振り返らない。ただ一心に楠を見ている。やがてやちるの弾む声が数を刻む。何処か楽しげに。<br />
　３、２、１、――ドン。<br />
　日番谷は地を駆った。音も立てないやけに静かな瞬歩だった。ばびゅーん、と声をたてて目前にやちるの背中が走る。風に揺れるピンクの髪を見下ろして、流れさっていく風景を尻目に日番谷はその時ようやく視線だけで背後を振り返った。二人がスタートラインを切った場所はもう随分と遠い。その場所から僅かに南方に位置する大障壁の柱を見据えて、日番谷は翡翠を細めた。柱の黒い影が、まるで陽炎のように前のめりに揺れた、かのように見えた。<br />
（勘違いじゃねえな）</p>
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――誰かつけて来てる。</p>
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　その瞬間、日番谷は目の前のやちるには目もくれず、一度大きく大地を踏み鳴らすと、方向転換した。消え入るような早さで元きた道を辿り、スタート地点を越え南方にあった大障壁の柱の影に回りこんだ。瞬きもせぬ神速。一度目の瞬歩よりも遥かに早い瞬歩で踵を返した日番谷は、荒ぐ呼吸を深く一つ呼気を挟む事で押さえ柱の裏側で立ち止まった。<br />
　遅れるように日番谷の死覇装の上に重ねられたましろの羽織が翻る。それが、ふわりと足元に降りていく頃、日番谷はようやく目前の柱の影に視線を細め、そして、悔し紛れに大きく舌打ち打った。<br />
「ちっ」<br />
　柱の影。そこには何もない。あるのは色ずく日差しと微動だにしない黒い影だけだ。<br />
　人の気配も痕跡もない。</p>
<p><br />
　それが、単に悪ふざけや、興味本位のものであったならば、日番谷自身それを暴こうなどとは決して思わなかったに違いない。尾行や詮索に慣れない者ならば、対象が突然視界から消え行こうとしたら慌てる。慌てふためいて、必死に後を辿ろうとする。それが、罠であっても経験の浅い者はとっさに思考する術がない。だが、真意を測りかねるとも、日番谷達を追った『その人』が、その単純なカラクリに引っかからなかったのは確かだ。暴かれる、という危険を察知しそれを判断する力と、僅かな猶予があったとはいえ、隊長職を張る日番谷の瞬歩から安々と逃れる力がある。</p>
<p><br />
「勘のいいやつ」</p>
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　吐き捨てるように毒づいた時、遠く、楠の下でやちるがシロちゃーん、と大きく名を呼んだ。<br />
　目前の柱と自分の間を小さな風が流れていった。日番谷は、振り返った先の少女の姿に目を細め、あるいは全てが思い込みだったか、春の西日が見せた陽炎だったか、しばし考えた。<br />
「私の勝ちだからねーっ」<br />
　ぴょこんぴょこんと飛び跳ねる少女の肩でピンクの髪が揺れる。それを見ながら日番谷はようやく思考を止め、呼気を落とし、小さく苦笑した。そして、ゆっくりと手を振る少女の元に駆けた。緩やかな西日だけがそれを見ていた。<br />
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<p>――あれが、思い込みだって？<br />
まさか、そんな筈はない。</p>
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<p>　だが、多分この日はきっと、いつもとは違う。身近にいる少女にかき回されて少しばかり調子が狂っていたに違いない。<br />
　あるいは『その人』に、悪意や敵意を感じなかったから深追いする事を辞めたのか。</p>
<p>　だが、日番谷は核心的にそこに『誰か』が『いた』ことを知っていた。そうとしか言いようがない。其処には、誰かがいたのだ。じっとこちらを伺い、行き先を見つめる影が、其処には確かに、『いた』のだ。そして、それに気付いていながら、此処で全てを暴き出さなかった事を、僅か数刻後には、日番谷は後悔することになった。<br />
　<br />
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    <category>風邪が流行りました（十番隊と十一番隊・連載中）</category>
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    <pubDate>Sun, 29 Aug 2010 07:52:05 GMT</pubDate>
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